日本では珍しいタイプの小説:亜玖夢博士の経済入門 [小説]
橘玲の最新作。日本では珍しいタイプの小説で、経済学の理論をストーリー仕立てにして分かりやすくしたタイプの小説。ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か がイメージとしては近い。この小説でも橘玲の真髄である、経済の知識と独自のシニカルな見方が際立った良作である。
【目次】
第一講 行動経済学
第二講 囚人のジレンマ
第三講 ネットワーク経済学
第四講 社会心理学
第五講 ゲーデルの不完全性定理
筆者は臆病者のための株入門 (文春新書) 「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計 (講談社プラスアルファ文庫) と言ったマネー・投資の本で有名だが、永遠の旅行者 (上) では山本周五郎賞にエントリーされるように、小説家としても活躍している。
筆者の特徴はシニカルなものの見方。今までの作品では投資については、個人ががんばったってどうせ勝てないんだから努力するのはやめてインデックスにしておけという見も蓋もないことをはっきり言う。
本書でもそのシニカルなものの見方は健在で、経済学の有名理論をきっちり説明したあと、理論ではそうだけど実際の人間の行動はそう簡単ではないことをきちんと描ききっている。理論と現実のギャップを知り尽くした筆者の本領発揮であろう。
気軽に読めるし、元になった経済の理論を知っている人はそれに基づく登場人物のどたばたを楽しめ、理論を知らない人は簡単な概要を知った上で小説で笑えるというお得なつくりになっている。
ちなみに、本書の博士はamazonレビューでは笑うセールスマンこと喪黒福造を思い出すというレビューが多かったが、私のイメージは頭はいいのだがその使い方が分かっていないという意味で則巻千兵衛@Dr.スランプのイメージである。
気軽に読めるので、ちょっとした時間で楽しむにはもってこいだし、この本で興味を持ったら橘玲の過去作品も読んでほしい。お勧めの一冊である。
橘玲の過去作で私のお勧めは不道徳教育 。翻訳書だが、非常に楽しめる上に考えさせられる傑作である。
☆☆☆☆(☆四つ)
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