言霊論:逆説の日本史3 [歴史]
逆説の日本史第三巻。本書では著者の井沢元彦が主張する日本の言霊(ことだま)信仰について、多くの説明がなされている。歴史学上の正しさはともかく、日本における言霊信仰の強さについての説明は納得できるものが多い。
【目次】
第1章 道鏡と称徳女帝編―愛人騒動をデッチ上げた「藤原史観」
第2章 桓武天皇と平安京編―遷都を決意させた真相と風水説
第3章 『万葉集』と言霊編―誰が何の目的で編纂したのか
このうち、第一章は藤原氏と天皇家の関係について述べたもので、歴史上の常識では大悪人とされてきた弓削道鏡は実は女帝のブレーンとして清廉で優秀だったのではないかという説が展開されている。これについては、資料の少ない時代なので推測の余地が大きく、井沢元彦の説も荒唐無稽とは言えず、ありそうな説として楽しむことが出来る。
第二章、第三章は作者の力説する日本は言霊の国であり、当事はもちろんのこと今でも言霊信仰は根強く残っていることが繰り返し力説される。
少々、繰り返しがきつすぎてげんなりする部分があるが、それでも言霊信仰が現在でも残っているという部分については納得させられるものがある。
たとえば、世間を騒がせている「羊水が腐る」発言でも、仮にそれが科学的に事実なら正しいことを言っただけなので何の問題も無いはずだし、逆にそれが科学的に間違っているなら幸田來未が間違った知識を公の電波で流して恥をかいたというだけの話。それが言葉狩りに近い扱いを受けるのは言霊信仰なのかもしれないと思わずには居られない。
そういった言霊信仰は当事も今より強い形で存在していたとの仮定から、桓武天皇の遷都と万葉集を読み解く試みは、新たな見方が提供され、トンデモ説と小説と学説の境目の部分を体験できるという意味では一読の価値がある。
歴史の解釈を通じて日本人論を明らかにする試みを行っていると言う意味でも、本著は著者の渾身の作であり、読み応えは十分にある。
ただし、このシリーズで繰り返しているが、丸呑みで信じる人にはおそらくこの本は向いていない。教科書的な知識を得た上で、こんな見方もあるのではという受け取り方で楽しむのが適切である。
☆☆☆★(☆三つ半)
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