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歴史小説マニア必見:悪人列伝 中世編 [小説]

悪人列伝―中世篇 (文春文庫)

悪人列伝―中世篇 (文春文庫)

  • 作者: 海音寺 潮五郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 文庫

インパクトのある表紙とタイトル。古い人にとってはメジャーな本かもしれないが、40代以下の若い歴史小説ファンにもぜひとも読んでほしいシリーズの一冊。
今までにさまざまな小説家が描く歴史を読んできた人にこそ味わいつくすことの出来る内容である。

この本で取り上げられている「悪人」は以下の6名。それぞれについて、私の感想を述べさせてもらう。
前提として、著者の海音寺潮五郎はwikipediaによると1901年の生まれであり、戦前・戦中の歴史観の知識が前提になっている記述が存在する。悪人列伝 古代篇 (文春文庫) の弓削道鏡についてのくだりなどは、戦後生まれの私には、知識としては知っていても大悪人とされた空気を知らないため、若干温度差を感じるが、そうした部分も作品の味として楽しむことの出来るつくりになっている。

・藤原兼家
いきなりマイナーな人物から始まる。歴史小説好きで高校時代も日本史を選択していた私だが、この人物についての知識は無かった。藤原兼家が登場するほかの小説も読んだことないですし・・・・
ただ、知識が無いなりにこの人物はなぜ「悪人」と呼ばれるようになったのかについて、十分に納得がいく説明がされており、何の問題も無く楽しむことが出来た。

・梶原景時
源義経が登場する物語には必ず登場する「悪人」。筆者は鎌倉時代初期の御家人と将軍の関係を明確に述べると共に、梶原景時の性格を考察することで、なぜ「悪人」とされた理由について考察している。
官僚としては能吏であったろうという考察には納得するものがあり、梶原景時に同上の余地を残す内容となっている。

・北条政子
承久の乱における幕府勝利のヒロイン北条政子。現代の感覚では「悪人」にふさわしくないと思われるが、源氏から北条氏に実権が移る過程が明確に書かれており、「悪人」列伝にふさわしい内容となっている。
とはいえ、政子自体は頼朝との恋愛についての考察など、人間味も有り聡明な女性として描かれている。
おそらく真の「悪人」は北条義時・泰時なのであろうが、知名度から政子を選んだのであろう。

・北条高時
太平記はこの人によって鎌倉幕府が滅びることから物語が始まる。筆者も高時については、無能の人であったことについては弁護していない。ただし、鎌倉幕府の制度疲労についてはしっかりと述べられており、仮に高時が有能な人物だったにしても鎌倉幕府は長くなかったであろうことは読み取ることが出来る。
本作の中で「悪人」としては一番違和感が少なく、従来のイメージで見ることが出来る。

・高帥直
まったく関係ないが、私(30代前半)が学生時代に足利尊氏の絵として学んできたのは、実は高帥直の絵であったらしい。
足利幕府で実力を振るった帥直について、室町幕府の成り立ちと絡めて分かりやすく説明されている。この帥直編と次の義満編における室町幕府の成り立ち~初期の記述は、それだけで小説として一本書けそうなくらいに内容が濃く、面白い。
北畠親房を王佐の才ではないと言い切るあたりなど、他の太平記における登場人物に対する考察・記述も一級品である。

・足利義満
これも現代の歴史教育の感覚では「悪人」というよりヒーローという感じのする足利義満。朝貢貿易としての日明貿易という事実もあり、左派の教師などからも受けが悪くないはず。
著者は義満は才能はあるが、育ちのせいで傲慢になっていると分析。傲慢というだけあって、この本を読むと「悪人」としてふさわしく感じることが出来る。
義満は権勢をほしいままにしたが、室町幕府の脆弱性も記述されており、後につながる記述としても重要である(次の悪人列伝 近世篇 新装版 (文春文庫 か 2-50) は日野冨子からスタート)。

このように時代と人物考察から迫る記述はエンターテイメントとしても一流であり、メジャーな人マイナーな人が混ざった人選も楽しむにはもってこい。メジャーな人は世間のイメージとのギャップを、マイナーな人は純粋に人物の軌跡を楽しむことが可能である。
歴史小説好きならば必ず抑えておきたいシリーズと言える。

☆☆☆☆(☆四つ)


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コメント 2

kgoto

これ、おもしろそうですね。
同じ著者で、”日本名城伝”は、読みました。これもおもしろかったです。
by kgoto (2008-02-25 05:57) 

book-sk

kgotoさん
日本名城伝も面白そうですね。
この筆者の文章のくせが大丈夫なら悪人列伝は自信を持ってオススメできます。マイナーな人が多く出てくるのが楽しいです。
by book-sk (2008-02-27 21:38) 

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