ホラー仕立ての社会派小説:廃用身 [小説]
「破裂」が面白かったので、久坂部羊第二弾に挑戦。
「破裂」のエントリはこちら
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-05-17
本書は主人公たる医師が廃用身(動く見込みのない体の部位)となった部分を切除することで、老人のQoL(Quality Of Life)を向上させる療法を発見することから始まる。
この「Aケア」と名づけられた療法によって、老人のQoLは向上するのだが、その内容が故に異論・反論も多く、主人公に悲運が襲い掛かる。
本書は、現役医師の久坂部羊が書いただけあってリアリティ十分。
本書のちょっとしたトリックとあいまって、一瞬ノンフィクションではないかと勘違いしてしまうくらいのリアリティがある。
筆者の実力がにじみ出ている作品であり、デビュー作が本書なら、「破裂」のように面白い小説を書くのも納得がいく。
このエントリのタイトルに「ホラー仕立て」と書いてしまったが、老人の四肢を切り落とす場面を除くと、ホラーになっている原因の多くは現在の老人介護・老人医療のいびつさに起因する。
お金がないために介護制度を利用できずに、家族が疲弊して虐待を引き起こす。痴呆症の老人に対処しきれず、姥捨てに走る。こういった事例がフィクションとして描かれているが、現実は本書以上に絶望的だ。
後期高齢者医療制度の報道を見てもわかるように、若者にはもはや老人を支える力がないのに、高度成長期を生きた老人でもなぜか生活に余裕はない。
アリとキリギリスの物語でアリとキリギリスが同世代なら、アリがキリギリスを助けるかどうかの選択肢がある。しかし、この国の状況は年上のキリギリスを年下で十分にたくわえが出来ていないアリが助けるかどうかと言う絶望的な状況に置かれているかのようだ。
そういった老人介護・老人医療の状況をリアルで分かっている筆者が書いた故に、内容以上のホラーを感じてしまう。しかし、これらの事実から目を背けるわけにはいかない。
「破裂」と同様、筆者の強い問題意識が分かる一冊であり、介護されるほうもするほうもぜひ読んでほしい一冊である。
☆☆☆☆(☆四つ)
他のブログの反応はこちら等。
私と同じように、ノンフィクションと思ってドッキリした人も多いようです。
ただ、本書がすごいのはそういった小手先のテクニックだけでなく、内容も尋常でなく衝撃的かつ面白いところですね。
http://71260876.at.webry.info/200804/article_6.html
http://yomihibi.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_488e.html
http://kirin-love.cocolog-nifty.com/lively/2008/01/post_3a61.html
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