ワーキングプア問題の基本がよくわかる本:ワーキングプアは自己責任か [経済]
ワーキングプア問題の論点・現状が網羅された本書。
ネット界隈でよく見るワーキングプアやネットカフェ難民の問題点と、それへの解決策として語られることの多いベーシック・インカム、ベーシック・キャピタルの基本がコンパクトに分かりやすく書かれている。
【目次】
第1章 フリーター漂流時代の悲劇(あるフリーターの寂しい老後 このままフリーター人口は減少するのか? ほか)
第2章 諸外国でも増える絶望する若者たち(過去20年で世界的に所得格差が拡大 韓国でも増えるワーキングプア ほか)
第3章 ワーキングプアから脱出できない現実(ニートの多くが「いじめ」を経験 「ひきこもり」とニート ほか)
第4章 「心のワーキングプア」になる正社員(「働きすぎ」となる若手正社員 経済のIT化が長時間労働につながる ほか)
第5章 ワーキングプアの連鎖を断ち切るために(「ワーキングプア」はすべての人にとっての問題 諸悪の根源は「新自由主義」にあり ほか)
本書の1章と2章はワーキングプアの現状が書かれている。
新聞の論調は日本では小泉政権以来の自民党政治によって貧富の差が拡大している、と言う論調で語られることが多い。
しかし、現状は世界中でワーキングプアは増加していることが分かる。日本だけの問題ではないし、世界で同じようなことが起こっており、対応や現状などは参考になることが多いことも分かる。
3章ではワーキングプアが社会問題であることが書かれており、ワーキングプアになった人が努力不足と言うだけでないことが分かる。最近はワーキングプアはただの怠け者であると言う論調は減ってきたが、それでも団塊の世代を中心にそうした主張をする人はいまだに存在する。
そうした時代錯誤な主張に対して、正確に現状を把握することが出来る。
そして、4章ではワーキングプア≠非正規雇用であることが分かりやすく書かれている。
当事者達にとっては常識でも、意外とこの視点は忘れられていることが多い。正社員でも過重労働によって板子一枚下は地獄の状況におかれてしまっているのだ。
5章では、解決策が書かれているが、筆者の主張は控えめにされており人によっては物足りなく思うかもしれない。しかし、問題と解決策を鳥瞰すると言う意味ではこのぐらいのボリュームがちょうどバランスがいいのであろう。
全体を通じて、本書は問題を論じるための基礎の知識が手に入る。ワーキングプアについて考える・学ぶための題一冊としては適当な意見だろう。
世代間闘争論や雇用流動化の促進等劇薬的な解決策に触れていないのも、筆者が問題への入門として本書を考えていたからであろうと思われる。
もっとコアな意見を知りたい方は、本書をきっかけに問題に特化した本を読んでみると言いのだろう。
筆者の実力がよく出た分かりやすい本である。
☆☆☆★(☆三つ半)
他のブログの反応はこちら等。
ネガティブな意見としては解決策が弱いとの意見が多いようですが、私はあえてこのくらいのバランスがいいのだと思っています。
また、この本の単なる感想を超えてワーキングプア問題全体への意見を述べるエントリも多く、問題の入門編と言う筆者の思いに合致した読まれ方をされているのだと思います。
http://haru119.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_285e.html
http://d.hatena.ne.jp/Tommy1/20080417/1208441095
http://blog.goo.ne.jp/shomin-law/e/c5d0587b5f0222b13996e45a39af6835
はじめまして。
こちらの記事に書かれている、「ベーシック・キャピタル」 とは、
どのようなものなのでしょうか?
ネットで調べてみても、今一つ良くわかりません。 (>_<)
ある所で、
「例えば、生まれた時に一定額の財産が付与されて、
生きている間にどのように使ってもいいが、
死ぬ時に所定の利子をつけて、国に返さないといけない。」
みたいな説明がされていたのですが、もしこの通りだとすると、
死ぬ時に、全くお金とか財産を持っていなかった場合は、どうなるのだろうか?
と思ったのです。
by kyunkyun (2009-07-06 16:40)
> kyunkyun さん
ちょっと調べればわかると思うのですが……。
日本をはじめ、自由を認める先進国の場合、罰則を甘受した上で国の法律に従わない自由も当然に存在します。
「ベーシック・キャピタル」についても、返済しない場合は遺産から控除するし、遺産がゼロの場合はそのまま放置することになります。遺産なんか残さなくていいと思っている人からは「ベーシック・キャピタル」を取り立てることは事実上不可能です。
言葉は悪いですが、「死刑になりたい」と思って人を殺す人はどんな罰則を持ってしても止めようがないのと一緒です。
実際には人が死ぬ時期をコントロールできない以上、ピッタリと使い切ることは難しいので、全額ではなくとも、一定額のお金は確保できることの方が多いと思います。
そのあたりのシニカルな現実に興味があれば、橘玲の本を読んでみるといいですよ。
by book-sk (2009-07-10 23:54)