伊坂幸太郎の世界にあったテーマなのか……:魔王 [小説]
伊坂幸太郎がファシズムに立ち向かう兄弟の話を描く本書。
伊坂幸太郎の持ち味、世界観は健在だが、本書のテーマがぴったりであったかどうかは疑問が残る。
本書は二部構成で、第一部は自分の心の中で思ったことを、そのまま相手に話させることが出来る能力を持つ兄が主人公。
ムッソリーニをモデルにした野党の党首犬養に対して危機感を持ち、対決するまでが描かれる。
第一部の主人公は街頭演説の場で、犬養の求心力を失わせる発言をしようとさせるが、犬養の支持者に超能力?によって脳溢血を発症させられて殺されてしまう。
第二部は弟が主人公。弟は兄の死によって、選択性の勝負運が異常によくなるという能力を持つ。
時間の経過と共に、犬養は首相になっており、世間の注目は憲法改正に集まっている。その息苦しい雰囲気を嫌って、第二部の主人公は、恋人と共に、自分自身の戦いを始めようとする。
伊坂幸太郎の小説らしく、ちょっとした超能力を持った登場人物が活躍する。また、登場人物は主役、脇役共にキャラが立っており、皆さわやかで飄々としており、人間的魅力にあふれている。
伊坂幸太郎の持ち味・実力は十分に発揮されていると言える。
ただ、日本を舞台にしたファシストと憲法改正というテーマは本書に違和感を与えている。
筆者もあとがきで、憲法改正が主テーマではないが、舞台として重要な役割を持っていると書いている。私が意訳すると、憲法改正についての主義主張は存在しないが、小説の世界観において憲法改正は重要な役割であり、避けては通れない、と言うことだと思った(調べたわけではないので、違っていたらすみません)。
上記のように、必要性は認めるが、それでも、主義主張を伴わずに居られない憲法改正をテーマにしたのは本書の持ち味をそいでいると思える。飄々とした持ち味を持つキャラクターに好感を持ちづらくなってしまっている。
伊坂幸太郎の持ち味は発揮されているが、他の著作と比べて特にオススメと言うことはない。
筆者の本を読んだことのある人には良いが、初めての人には他の本のほうがオススメである。
☆☆☆★(☆三つ半)
他のブログの反応はこちら等。
余り政治的なコメントはありませんでしたが、結論があいまいな小説なので、賛否両論はあるようです。
http://machi-web.seesaa.net/article/99133354.html
http://d.hatena.ne.jp/iriari/20080608/1212931843
http://overthefield.blog31.fc2.com/blog-entry-22.html
http://blog.livedoor.jp/yukichi13/archives/52020469.html
http://blog.livedoor.jp/lovehon/archives/53681481.html
漫画版もあるのですね
内容は読んだことがないので不明ですが、同じ伊坂幸太郎なら「陽気なギャングが地球を回す」とか「グラスホッパー」の方がいいと思うんだけどなぁ。
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私もつい最近この本読みました。
一番好き、と言うわけではないけれど楽しかったです♥
同じ『魔王』なら漫画版の方がわりと好きだったりしますv
『グラスホッパー』に出てくる【蝉】【鯨】【ミツバチ】が登場したりと、かなり設定を斬新に変えてありますが、ここ最近の少年漫画の中ではダントツ大好きな作品ですvv
by ミナモ (2008-06-28 19:15)
>ミナモさん
コメントありがとうございます。
漫画版は大胆に設定を変えているのですね。
それなら読んでみたい気もします。
本書をそのままなら向かないと思っていましたが、やっぱりその辺は考えているのですね。
by book-sk (2008-06-29 21:53)