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搾取される若者の描写が秀逸:メタボラ [小説]


メタボラ

メタボラ

  • 作者: 桐野 夏生
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2007/05/08
  • メディア: 単行本



8月18日号のAERAでは、「沖縄こもり」の記事があるが、本書はまさに沖縄を舞台に、様々な搾取される若者を桐野夏生独特の生々しさで描いている。
衝撃無しには読むことの出来ない傑作だと思う。
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以下の部分にはネタバレがあるので、そういうのを気にしない人だけが読んでほしい。
本書はあらすじを知ったからといって、面白みが失われる類の小説ではないとおもうが、最初に読んだ時の衝撃を大事にしたい人は読んではいけない。



本書は記憶喪失の主人公が、沖縄本島のジャングルで宮古島出身の若者、昭光と出会うことから始まる。主人公は、記憶喪失の上、お金・身分証明書・携帯電話の類は一切持っておらず、無一文でのサバイバル生活を余儀なくされる。
お金も無く、身分も定かではない主人公に世間は厳しいが、それでも心ある人に助けられて、ささやかな幸せを満喫しながら前向きに生きる主人公の姿が描かれる。
ここまでが、前半部分で所謂光のパート。

後半部分は記憶を取り戻した主人公の悲惨な生活が明らかになる。親に見捨てられたため、大学を中退せざるを得なくなり、酒で身持ちを崩しかけたこともあって、偽装請負の会社で精密機器メーカーで働くワーキングプアに落ちぶれてしまった主人公。
そこで思い出された、柏崎のメーカーでの生活は悲惨の一言に尽きる。
不潔な同僚と同室にされ、プライバシーも無い生活で、仕事は機械の部品になったかのような単純労働。それで居て給与は最低レベルであり、かつ、現実の派遣会社でもあるように寮費・交通費・制服代などが搾取されている。
同じ職場には優秀な中国人の集団がいてアイデンティティーは揺らぐし、入れ替わりする同僚には、警察から逃げている犯罪者や自殺するものも混ざっている。
派遣会社の社員からは見下され、いいように扱われる。桐野夏生だけあって、下手なルポルタージュよりも生々しく最底辺の生活を描いている。

また、主人公は沖縄で様々な若者にであう。昭光、銀二、リンコ、ミカ。誰もが搾取されており、最底辺の若者の一つの姿である。一瞬一瞬は輝いていて、楽しみも多いのだが、それらの人の将来は暗い。
そういった暗闇の中の一瞬の光をきっちりと描ききったのが本書であり、安定しない状況にありながら必至で生き抜く若者の姿には感動する。

私のあらすじを読むと暗い小説と思う人も居るかもしれないが、底辺として描かれている人は決して暗いものではない。そういう意味では、読んでいてどんどんどんどん気分が落ち込んでくることは無い。
底辺に居ることに気づかず、暗さを見せないの若者は逆に怖いとも思える。少なくとも私の身近にこんな人たちが居たら、目を背けたくなるのだろうが、それでも一瞬を生きるスプリント的な生命力にはあふれている。

ワーキングプア、ニート、沖縄問題、家族のあり方などの現代の問題点をうまくモチーフとして消化した桐野夏生の代表作たりうる小説ではないだろうか。
ちなみに、本書が扱っている大きな問題はもう一つあるのだが、いくらネタバレでもそれだけは読む人のために伏せておこう。

☆☆☆☆(☆四つ)





他のブログの反応はこちら等。
結構分厚い小説なのですが、一気読みのエントリが多数。
それだけの力がこの小説には宿っています。
http://kohinatayou.blog69.fc2.com/blog-entry-143.html
http://shibuya.blog7.fc2.com/blog-entry-755.html
http://blog.goo.ne.jp/noznoz7/e/5e8fdb377f4b27d80a8cbb61dd072181
http://haruhinata.exblog.jp/8335314/
http://moriya-moriya.jugem.jp/?eid=189
http://tohchan.at.webry.info/200807/article_17.html
http://blogs.yahoo.co.jp/sushikuine108/57339409.html
http://plaza.rakuten.co.jp/matsujmatsuj/diary/200807150000




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