若者の愚かさを描く:ミノタウロス [小説]
参考:「文学賞メッタ斬り! 2008年版 たいへんよくできました編 (2008)」のエントリはこちら
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-08-10
「文学賞メッタ斬り! 2008年版 たいへんよくできました編 (2008)」で絶賛されていた本書。路線としては、純文学風味のエンタテイメントというところかな。
以下にも書くけど、思うところは結構あるが良書だと思う。
本書は、第一次世界大戦時のロシアが舞台。主人公は、農場主の次男として生まれ、わがままの許される何不自由ない生活を送っている。そして、若者特有の愚かさが発揮される年代になって、革命によりロシアの治安が一気に悪化する。そうした時代の中で、主人公は好き勝手に生きる余りに、人としての尊厳を失っていき、自分がそれに気づいた時には抜き差しならなくなっているというものだ。
まず、本書を読んで思ったのは、時代の変わり目は徐々にやってくるということ。日本人は私の祖父母の世代が終戦を経験したこともあり、革命というと一晩にして世界が変わるような印象を持つと思う。また、そうした描写をした物語も多い。しかし、本書もそうだし、漫画「ナポレオン獅子の時代」などでもそうだが、革命後の世界はゆり戻しを伴って徐々に変わっていく。そうした時代を生きる人々は徐々に変化する時代に翻弄され、消耗させられていくのだろう。
次に、本書を読んだ私が感じたのは、主人公の若者の愚かさが、若者特有のものなのか、農場主の息子という何の苦労も無い育ちをしたゆえのドラ息子としての愚かさなのかということだ。
筆者が描きたかったのは、生きるのに必至なあまり人間の尊厳を失っていくというところだから、筆者としては若者特有の愚かさに重点を置いているように思える。しかし、私が感じ取ったのは、少なくとも若者に特有の物と育ちによるものが半々程度のウエイトで交じり合った主人公独特の愚かさである。
この愚かな主人公が、それでも必至に生き抜いて、人間の尊厳を剥ぎ取られていく様を見るのが、もどかしくもあり、息苦しくもあり、そしてちょっぴり優越感を感じることが出来る。
この複雑な思いは純文学にありそうな重たさを持ったところがあり、同じ愚かな男の破滅でも馳星周「ブルー・ローズ」とは違うし、同じ少年の愚かさを描いた小説でも貫井徳郎「空白の叫び」とも異なる。
上記作家達よりは若干純文学よりのテイストを感じる。
このエンタテイメントでありながら純文学の風味を感じることの出来る文章が、本をたくさん読む人にはヒットするのだろう。そういう意味では、「文学賞メッタ斬り! 2008年版 たいへんよくできました編 (2008)」でほめられているのもよくわかる。
読書になれた所謂上級者向け小説だろう。
☆☆☆★(☆三つ半)
引用された本のエントリはこちら
「ナポレオン獅子の時代9」
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-04-12-1
「ブルー・ローズ」
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-08-04
「空白の叫び」
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-05-29
他のブログの反応はこちら等。
結構賛否両論。私は悪くない小説だと思いますが、エントリにも書いたようにヘビーな読書家受けしそうな作風なので、書評を言葉通り信じて読むと期待を裏切られたような印象を受けることも多いかもしれません。
読書中毒に近い人には自信を持ってオススメできるのですが。
http://chirinureba.blog19.fc2.com/blog-entry-887.html
http://blogs.dion.ne.jp/white_night/archives/7471001.html
http://ameblo.jp/goldius/entry-10115051379.html
http://blog.livedoor.jp/rothko/archives/51362637.html
http://blogs.yahoo.co.jp/zo_no_mimi/29483440.html
http://pandoranikki.blog69.fc2.com/blog-entry-269.html
http://aboutagirl.seesaa.net/article/41958186.html
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