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本当の巨悪を舞台にしたドタバタハードボイルド:国境 [小説]


国境 (講談社文庫)

国境 (講談社文庫)

  • 作者: 黒川 博行
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/10
  • メディア: 文庫


シリーズの「疫病神」のエントリはこちら
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-08-15
「暗礁」のエントリはこちら
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-07-24

社会派ミステリって巨悪を描くと言いながら、実はたいしたことのない悪を描く物も多い。ところが、本書はとびっきりの巨悪が描かれている。言わずと知れた北の将軍様、金正日である。

とは言っても、いつものシリーズらしく大阪のヤクザと建設コンサルがどたばたを繰り広げる、軽いノリも見られる小説なのだが、北朝鮮を舞台にしながら不自然なところの少ない本書には、類を見ない着眼点が光る。

本書のストーリーは、大阪の暴力団二蝶会の桑原が、若頭の嶋田が詐欺師にだまされた3,000万円を取り返そうとするところから始まる。ところが、詐欺師は在日朝鮮人であり、北朝鮮に逃亡してしまう。
金に執念を見せる桑原と巻き込まれた二宮が、詐欺師を追いかけて北朝鮮に侵入する。北朝鮮でのアクションの末、真相が明らかになるのだが、その真相も大物政治家の私設秘書、桑原の本家筋に当たる大物暴力団、在日の実業家、大阪府警の刑事などたくさんの人物を巻き込む、大きな話が用意されている。

本書の見所は、北朝鮮の実態を小説としてのリアリティの元に描いた鋭さと、北朝鮮という特殊な部隊で遺憾なく発揮されるハードボイルド・アクションシーンのすばらしさである。
古今の小説家はあらゆる舞台を考え、常に過激を要求する読者に答えてきたが、今まで誰も使ったことのない舞台を見つけ出してきて、うまく料理した筆者の実力が明らかになった作品である。

上にも書いたように、本書には北朝鮮、在日朝鮮人、朝鮮総連とタブー視されることも多い題材を扱っているので、連載中にはいろいろな問題もあったかも知れない。それらを乗り越えて、これだけの作品が完成したのは、本当にすばらしいとしか言えない。
本書は間違いなく筆者の代表作と言っていいだろう。

分量が多く、北朝鮮のシーンから始まるのでなれない人には読みにくいところもあるかも知れないが、手に取った人は投げずに最後まで読んでほしい。
エンタテイメントとしてのすばらしさと、北朝鮮という風変わりな舞台がミックスして、独特の深い味わいのある作品に仕上がっている。

桑原曰くの”パーマデブ”の容態についての報道が世間を賑わせている今だからこそ、読んでいるのもおもしろいのでは無かろうか。

☆☆☆☆(☆四つ)

他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価)
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http://blogs.yahoo.co.jp/tindy148/21464543.html
http://blogs.yahoo.co.jp/firoswi/10975129.html

皆さん高い評価。それだけの評価を得るにふさわしい作品だと思います。
この作品で直木賞を逃したのは筆者にとっても、読者にとっても残念だったんじゃないかな。
(本書が逃した回で直木賞を受賞したのは「あかね空 」と「肩ごしの恋人」)







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コメント 2

紅花。。

はじめまして。
トラックバックありがとうございました。
厄病神と暗礁も面白かったですよね!
私も大阪出身なので、二ノ宮さんの事務所周辺や
街の描写に懐かし~い(;_:)と感じながら読んでます。
図書館三昧の日々なので、book‐skさんの書評も
参考にさせて頂きますね。
by 紅花。。 (2008-09-17 11:35) 

book-sk

>紅花。。さん
コメントありがとうございます。私も大阪出身の人間なので、懐かしさを感じますね。大阪のおっちゃんたちの会話そのまんまですよね。
同じ図書館愛用者同士、今後ともよろしくです。
by book-sk (2008-09-17 21:34) 

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