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重力からは自由になれない:重力ピエロ [小説]


重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/06
  • メディア: 文庫



伊坂幸太郎にしては、暗い結末だと思った本書。
登場人物は他の作品同様、個性的で、ポジティブで、パワフルだ。ただし、伊坂幸太郎独特のどんな理不尽にも笑って立ち向かうようなストーリーではなく、最後は現実を意識しなければならない作品になっている。

「ふわりふわりと飛ぶピエロに、重力なんて関係ないんだから」
「そうとも、重力は消えるんだ」父の声が重なってくる。
「どうやって?」私が訊ねる。
「楽しそうに生きてれば、地球の重力なんてなくなる」
「その通り。わたしやあなたは、そのうち宙に浮かぶ」

上記に引用した一節は、以下にも伊坂幸太郎らしい、ポジティブな台詞だ。
ほかの作品では、理不尽な事態に阻まれながらも、信念を貫いてハッピーになるストーリーが多い。
少なくとも、わたしが今までに読んだ「チルドレン」、「砂漠」、「終末のフール」は、ポジティブな登場人物が、独自の価値観におけるハッピーエンドをつかむストーリーであると言える。

ところが、本書は主人公の弟、春は独自の価値観に殉じていい幕引きをしたのだろうが、主人公の泉水は後味の悪いラストを味わうことになる。
春が二階から落ちてきた
と言う、ラストに象徴されるように、結局重力は無くならなかったのだ。

心意気に殉じる弟と自分の説得を無視された形の兄。このコントラストが、今までに読んだ伊坂作品とは若干異なる印象をわたしに与えた。ただただ綺麗なだけの小説ではなく、深い闇をちょこっとだけ見せてくれた本書の評価は高い。
伊坂幸太郎が書く以上、もちろんダークな小説にはなりようがないのだが、こういうちょっぴりくらい結末はわたしの好みに合っている。

伊坂幸太郎を薄っぺらく感じてしまう人は、一度読んでみてほしい。
本書なら、悪くない印象を受けると思う。

☆☆☆☆(☆四つ)

併せて読んでみたい、他の作品のエントリはこちら
本書と同じく父と子をモチーフにした短編集「チルドレン」のエントリ
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-07-17-1
徹底的に綺麗で前向きな人々を描いた短編集「終末のフール」のエントリ
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-07-09
死神の生き方を通じて独特のルールに生きる人を綺麗に描いた「死神の精度」のエントリ
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-08-14-1
大学生たちの前向きな生き方と美しい友情を描いた「砂漠」のエントリ
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-04-02-1
わたしの苦手な雰囲気の「魔王」のエントリ(これは伊坂幸太郎向きじゃないテーマだと思う)
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-06-21-1


他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://blog.goo.ne.jp/kotsujitamiko/e/fb159c1249108d4ece967b8529935ef1
http://silverchainsaw-mk.blog.so-net.ne.jp/2008-09-30
http://sanzendou.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post-c810.html
http://toe-movieparadise.way-nifty.com/toecinematiclife/2008/09/post-66a4.html
http://huwahuwahiyor.jugem.jp/?eid=380
http://s-drop.jugem.jp/?eid=800
(微妙な評価のエントリ)
http://t-amana.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-c810.html

引用した意外にも、微妙な評価のエントリは多かったのですが、微妙な評価になっている理由の多くはラストからくる後味でした。わたしはこれも悪くないと思うけど、苦手な人は苦手なんでしょう。
そういう人は、ほかの伊坂作品なら楽しく読めると思います。






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