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政治的熱狂の時代とアナーキスト:弥勒世 [小説]


弥勒世(みるくゆー) 上

弥勒世(みるくゆー) 上

  • 作者: 馳 星周
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2008/02/21
  • メディア: 単行本



弥勒世(みるくゆー) 下

弥勒世(みるくゆー) 下

  • 作者: 馳 星周
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2008/02/21
  • メディア: 単行本



本書の舞台は返還を控えた1969年~1970年の沖縄。
政治的熱狂の時代にあって、返還されても沖縄は何も変わらないと言う現実を見ながら、世界に罅を入れたいと願う破壊願望を併せ持った男が主人公。
米国領の沖縄を舞台にした、馳星周お得意のハードボイルドである。


本書のストーリーは、米国領の沖縄で離島出身で孤児という、差別される環境で育った主人公伊波尚友が、本土復帰に沸き、米兵の不祥事に反発する沖縄において、沖縄は搾取されるだけで何も変わらないと言う現実を持つ目を持ったがために、全てを憎み、世界に対する破壊願望を抱くようになる。そこに、尚友の友人である比嘉政信とヤクザの親分であるマルコウが、とんでもない計画をしていることを知り、自らも加わることを望む。
主人公尚友は一度は自らを愛してくれる仁美との間で揺れるが、仁美に起こった悲しい現実が主人公を破滅に向かって加速していく……。

はっきり言って、馳星周の作品としては特に目新しい感じがあるわけでもなく、お得意のハードボイルドを、舞台を変えて演じているように見える。
それでも、作品としては十分に楽しめるレベルには仕上がっており、馳星周の作品に飽き飽きしているという人でなければ、本書は十分に楽しめるはずだ。

左翼に存在する、環境が変わればよくなるはずだという意味のない思い込みによって、浮かれることができなかったがために、破滅するしかなかった主人公とその仲間たちは、世の中の皮肉を強烈に表している。
脳天気な左翼と違って現実はよく見えている、現実を見た上で利己的に生きられるほど根っこのところで悪ではない、そうした人が破滅するしかないのは、世の中が間違っているのだろう。

沖縄を舞台にして、米兵の横暴を描いてはいるが、単純な基地反対・反戦の非現実性、ばかばかしさも同時に描いているので、政治的な立場はどちらの人でも反発を持たずに読むことができる。筆者はおそらく政治的思想の無意味さも併せて語りたかったのかも知れない。

政治的な立場によらずエンタテイメントとして、分厚いけれど気軽に読める作品である。


最後に一点気になったのは、島田に関する伏線が回収されきっていないところ。ラストも若干急な展開なので、筆者又は連載していた週刊ポストの側で何らかの都合があったのだろうかと思ってしまう。

☆☆☆(☆三つ)


他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://wakubuku.seesaa.net/article/107403077.html
http://blog.goo.ne.jp/casapararara1010/e/993fb791f4282452e87bf7949f15d795
http://okinawashikaiya2.ti-da.net/e2072954.html
(ニュートラルな評価のエントリ)
http://koyamay.iza.ne.jp/blog/entry/632850
(ネガティブな評価のエントリ)
http://junten.ti-da.net/e2277787.html
http://d.hatena.ne.jp/pnu/20080326/p1

ブログのエントリって比較的ポジティブなものが多くなる傾向がある。わざわざ書くのだから当然なのだろうが。
本書のエントリは賛否両論、しかも理由もいろいろでおもしろい。
純粋なエンタテイメントとして評価する者、沖縄の歴史をきちんと描ききったことを評価する者、描写の甘さを指摘する者、描かれている思想を評価する者……。
このように読んだ人が全然違うところを見ている小説って言うのは実は珍しい。そういうところに本書の特徴があるのだろう。







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