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時代に流されながらもしっかりと生きる女たち:赤朽葉家の伝説 [小説]


赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

  • 作者: 桜庭 一樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2006/12/28
  • メディア: 単行本



終戦後の昭和から、平成の現在までの時代の流れとともに、そこに生きた女性3代のたくましい生き方を描いたミステリ。
時代を題材にした小説でも、奥田英朗の「東京物語」がおじさんテイストなのに対して、本書は女性テイスト。桜庭一樹の代表作に恥じない、素晴らしい出来である。

本書のストーリー

山陰地方山々に住むサンカの捨て子万葉は、若い夫婦に育てられた後、地元の旧家で製鉄業を営む赤朽葉家に嫁ぐ。生まれ持った千里眼の能力を生かして、終戦直後の神話が生きていた時代から、現代まで激動の時代を家とともに生きるのだが、往生の際に孫の瞳子に自分は人を殺したことがあると告白する。
万葉、子供の毛毬、孫の瞳子と女3代の人生の重みを感じるとともに、万葉の謎に立ち向かう瞳子は最終的に一つの結論に達し、自分の気持ちに整理を付ける。


本書の見所は、主人公赤朽葉万葉のキャラクターと、それぞれの女性が生き抜いた時代の描き方が非常にうまくマッチしているところにある。
戦争が終わって復員兵が帰ってくる時代、所得倍増のかけ声の下高度成長を謳歌した時代、石油ショックに揺らぐ製鉄の時代、短いバブルの時代、そして、現在の閉塞感漂う時代。
これらの時代背景と、時代が若者に何をもたらしたかという点が非常にうまく描かれているのだ。

万葉の妹で学生紛争のリーダーを勤めた肇は、水産研究所に就職して堅実に勤め上げ退職した。
万葉の子、毛毬はレディース全盛時代の中国地方制覇を成し遂げる。その傍ら、毛毬の友人蝶子は受験戦争で消耗し、ブレーキが壊れた車のように絶望に向かって突っ走る。
毛毬の妹、鞄はアイドルにあこがれ、バブル時代の東京生活を謳歌し、毛毬の弟孤独は現れ始めたひきこもりとして、家で人生を送る。
そして、万葉の孫で毛毬の娘、瞳子は景気の冷え込んだ山陰地方にあって、大きな野望を持つことなく平凡に生きている。
こうしてみると、人の人生に時代がしっかりと現れているように思えるのではないだろうか。

私は76年の生まれなので、本書の登場人物の誰とも違う時代を生きた。しかし、バブル以降の描写は時代をうまく切り取っていると思うし、本書で描かれる若者の気質はそれぞれの時代を確かに感じさせられる。

本書の鍵となるのは、それぞれの時代の女性と若者。こういうテーマを書かせると、桜庭一樹は本当にうまい。
時代を懐かしむこともできるし、感情移入して時代の流れに流される感覚を味わうこともできる。

無駄に長いだけじゃない、大作としての必然性を持った、素晴らしい作品である。

☆☆☆☆☆(☆五つ。満点)

他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://foghorn.blog33.fc2.com/blog-entry-131.html
http://blog.livedoor.jp/ichimi_10/archives/51610920.html
http://konikoscafe.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-c8a7.html
http://windstille.at.webry.info/200902/article_8.html
(ネガティブな評価のエントリ)
http://wadatumi.blog75.fc2.com/entry/785/
http://yogurtcaramel.blog94.fc2.com/blog-entry-146.html

筆者の代表作だけあって、エントリが多い多い。
ミステリとしてはあまり面白みがないと言うこともあって、評価していないエントリも多かったですが、個人的にはミステリパートの出来は本書に影響を与えるものではないと思っています。






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