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大人の常識としての地理:「三つの帝国」の時代――アメリカ・EU・中国のどこが世界を制覇するか [社会]


「三つの帝国」の時代――アメリカ・EU・中国のどこが世界を制覇するか

「三つの帝国」の時代――アメリカ・EU・中国のどこが世界を制覇するか

  • 作者: パラグ・カンナ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/02/20
  • メディア: 単行本



ハッキリ言ってすごい。
本書は、世界にあまたある「国」の状態について詳細に述べることで、米国の影響力が低下し、EU・中国が追い上げてきていることを明らかに示している。
分類するなら「政治」の本なのだろうが、「地理」の知識も身につく。
訳者が後書きで述べているように、本書は大人のための「80日間世界一周」という評価がふさわしい一冊である。

実は、本書を読むのに時間を取られてエントリの間隔が開いてしまった。
しかし、それだけの価値は十分に存在する本である。

【目次】 序章 三つの“帝国”の関係
1 ヨーロッパの東
  第1章ブリュッセル
  第2章変貌するロシア
  第3章ウクライナ
  第4章バルカン諸国
  第5章トルコ
  第6章コーカサスの回廊
2 ユーラシアの深淵部
  第7章シルクロードと現代の”グレートゲーム”
  第8章縮むロシア
  第9章チベットと新疆ウイグル
  第10章カザフスタン
  第11章キルギスタンとタジキスタン
  第12章ウズベキスタンとトルクメニスタン
  第13章アフガニスタンとパキスタン
3 モンロー主義の終焉
  第14章新しいルールの誕生
  第15章メキシコと中米諸国
  第16章ヴェネズエラ
  第17章コロンビア
  第18章ブラジル
  第19章アルゼンチンとチリ
4 “中東”とは何か
  第20章アラブ世界
  第21章北アフリカ諸国
  第22章エジプト
  第23章中東の火薬庫
  第24章元イラク
  第25章イラン
  第26章湾岸諸国
5 アジア人の手によるアジア
  第27章アジア人の手によるアジア
  第28章東アジア・西太平洋諸国と中国
  第29章マレーシアとインドネシア
  第30章インドシナ
  第31章大きさこそ全て
おわりに 世界に力の“平衡”は可能か


本書で得た知識を元に簡単なクイズを作ってみた。
このクイズでわからない問題があった人は、是非本書を読んでみてほしい。
ニュースの中で名前は出てくるけど、どこにあるかも知らない国をリアルな存在としてとらえることが出来るようになる


Q1.イラン、元イラクの主流派、サウジアラビア、アラブ首長国連邦。この中で主流派の民族が他とは異なる国は?
Q2.超大国ブラジルを除いた中南米諸国の中で、一番成長率が高く、今後が有望視されている国は?
Q3.カザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタン。この3国の中でもっとも先進的な国は?また、この3国の大まかな特徴は?

(以下回答を白文字で記載)
A1.イラン。サウジ・UAE・元イラク主流派はアラブ人。イランはペルシア人。ちなみに、イラクにはクルド人も一定数存在しており、宗教の違い(シーア派とスンニ派)も相まって、筆者は将来的には三つに分割すると予測している。

A2.チリ。米国・EU・中国と自由貿易協定を締結し、国内も左右のバランスが取れた政体で、教育水準も比較的高い。筆者は今後南米で第2世界から第1世界の仲間入りが出来る国はチリだろうと予測している。 他方、VISTAの1国として経済がいいように感じられるアルゼンチンは非効率な行政などが原因で、先々は暗い。

A3.カザフスタンは政治こそ独裁だが、資源で得た財貨を教育・インフラに投資しており、将来への投資がハッキリと行われている。中央アジアのリーダーとなる可能性は極めて高い。 タジキスタンは、イスラム過激派の影響が強く、独立していることだけが全てのような国。 ウズベキスタンは「テロとの戦い」を悪用した大統領が、反対派を片っ端から粛正して、腐敗政治の限りを尽くしている、中央アジアのアフリカのような国。
(以上回答)

日本人なら比較的詳しいと思われる、アジア・オセアニアからの出題はあえて外したが、Q2、Q3はかなりの難題だと思われる。そもそも、中央アジアや中南米の比較的正確な地図(と言うか、国の大きさと位置関係)が書ける人は少数ではないだろうか?

そして、そうした小国の実情を見れば見るほど、中国の影響が大きくなってきていることが明らかにわかるのだ。
筆者はそうした積み上げから本書のタイトルである「三つの帝国」と言う将来を確信するに至ったのであろう。
本書の持つ説得力は、中国の存在感が増してきていると言うトップダウンからそこに見合った事例を探してくるのではなく、各国の実情をボトムアップで積み上げた結論としての中国・EUの台頭を説いていることから生まれている。

アメリカ後の世界」のエントリでも描かれたような米国の凋落も各国への影響力の低下という点から、事実がいくつも突きつけられる形となっており、否が応でも納得せざるを得ない。

悔しいけれど、国内政治のちまちましたことしか相手に出来ない日本人の”ジャーナリスト”では絶対に描くことが出来ない本書。
アメリカ後の世界」と併せて是非とも読んでほしい。これからの国際政治上の常識であり、大人にとっての地理の基礎知識を身につけることが出来るはずだ。

私も購入して、ニュースがあったときの辞書代わりに使おうと思っている。

☆☆☆☆★(☆四つ半)

余談だが満点にしなかったのは、アジアの記述が若干薄いため。
本書の中でPart5に当たるアジアの章は他と比べると若干見劣りする。
なお、国際政治においてなんの重要度も持たないアフリカは当然のように本書の対象から除外されている。


他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://blog.livedoor.jp/ebiken72/archives/51604217.html
http://budojapan.seesaa.net/article/118738240.html

いい本なんだけど、内容について言及したブログが少ない。
新疆ウイグル自治区で暴動もあったことだし、こういう本はもうちょっと脚光を浴びてもいいような気がするが……
国内政治が騒がしい2009年に翻訳されたのも不幸だったかも。





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