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現代将棋から考える社会:シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代 [将棋]


シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代

シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代

  • 作者: 梅田望夫
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2009/04/24
  • メディア: 単行本



もはやネットの人と言うより、将棋の人になった梅田望夫が語る現代将棋。
そして、それを通じて考える将来社会のあり方をまとめた一冊。
将棋の技術的な側面はほとんど登場せず、将棋を通じて社会のあり方を書いているので極端な話将棋のルールすら知らない人でも楽しむことが出来る。

【目次】
はじめに――「指さない将棋ファン」宣言
第一章 羽生善治と「変わりゆく現代将棋」
 変わりゆく現代将棋
 予定調和を廃す緊張感
 将棋の世界に革命を起こす
 盤上の自由
 イノベーションを封じる村社会的言説
 将棋の未来の創造
 オールラウンドプレイヤー思想
 知のオープン化と勝つことの両立
 高速道路とその先の大渋滞
 将棋界は社会現象を先取りした実験場
 ビジョナリー・羽生善治
 二〇〇八年、ベストを尽くす
第二章 佐藤康光の孤高の脳――棋聖戦観戦記
第三章 将棋を観る楽しみ
 ネットの優位を活かす人体実験
 修業ですから!
 「将棋を指す」と「将棋を観る」
 将棋を語る豊潤な言葉を
 一局の将棋のとてつもなく深い世界
 ネットと将棋普及の接点
 出でよ! 平成の金子金五郎
 金子の啓蒙精神
 「現代将棋にも金子先生が必要です」
第四章 棋士の魅力――深浦康市の社会性
 「喧嘩したら勝つと思うよ」
 サンフランシスコの棋士たち
 深浦康市の郷里・佐世保への思い
 安易な結論付けを拒む「気」を発する対局者
 現代将棋を牽引する同志
 二つのテーブル
 人生の大きな大きな勝負
第五章 パリで生まれた芸術――竜王戦観戦記
第六章 機会の窓を活かした渡辺明
 終局後、パリのカフェで
 「立て直せる時間があるかもしれない」
 羽生王座への祝辞、十七年という長さ
 「勝負の鬼」が選んだ急戦矢倉
 若き竜王に大きく開いた「機会の窓」
 初代永世竜王への祝辞、将棋グローバル化元年
 少しでも進歩しようとすること
第七章 対談――羽生善治×梅田望夫
 リアルタイム観戦記と「観る楽しみ」のゆくえ
 揺れ動き続ける局面と、均衡の美
 羅針盤のきかない現代将棋の世界
 対局者同士が考えていること
 雲を掴むように、答えのない問題を考え続ける
 人は、人にこそ、魅せられる
 けものみちの時代、「野性」で価値を探していく
 「相手の悪手に嫌な顔をする」真意は?
 盤上で、すべてを共有できるという特性
 進化のプロセスを解析する研究者たち
 コンピュータとともに未来の将棋を考える
 指す者と、観る者の、これから
あとがき――「もっとすごいもの」を


序章のタイトル、『「指さない将棋ファン」宣言』。これが本書の特徴の一つだ。
今の将棋ファンの多くは、将棋の実力がアマチュア初段程度の「将棋を指す将棋ファン」である。
この状態は他のスポーツ、芸術鑑賞等の娯楽と比べるとかなり特異だ。

野球場にきているファンで実際に草野球をする人がどの程度いるだろう?
日本代表のサッカーを見に来るサポーターのうち、実際に趣味でサッカーをしている人がどの程度いるだろう?
クラシックコンサートの聴衆のうち、自分で楽器を弾ける人はどの程度いるのだろう?
絵画展の入場者のうち、自分で絵を描く人がどの程度いるだろう?

こう考えると、ファンのほとんどがアマチュアプレイヤーという将棋の世界はかなり歪だ。
トップ棋士のほとんどが男性なのに、女性ファンが少ないのもそうした現状の現れだろう。

そうした現状に穴を開けようとして、観戦の楽しみを書いたのが本書だ。
現役トッププロの渡辺明竜王が書いた「頭脳勝負」のエントリでも書いたように、今の将棋界に求められているのは見るだけのライトファンなのだ。そして、見るだけの価値がプロ将棋界には存在する。
このことについて梅田望夫の思いが熱く語られているのが本書である。

羽生善治、渡辺明、佐藤康光、深浦康市と言う2008年の将棋界で中心となった4名を取り上げたのも、トッププロを通じて見るファンに成ってほしいという思いだろう。
2009年では、久保利明、木村一基がこれに加わる感じなので、この両名についても筆者の筆で取り上げてほしいのだが……。


そして、本書のもう一つの特徴は、将棋界を通じてみる社会。
「知のオープン化と勝つことの両立」や「進化のプロセスを解析する研究者たち」や「イノベーションを封じる村社会的言説」と言ったタイトルからわかるように、梅田望夫が得意とするWeb2.0を将棋界を通じて語っている。
こちらについては、梅田望夫の著作を読んでいる人なら目新しいことはない。
もっとも、こんな見方も出来るのか?と言うちょっとした驚きはあるだろうが。

私自身は、この面ではさほど面白さを感じなかったが、梅田望夫ファンならこちらの方が興味深いかもしれない。

どちらの面から見ても、安定した切り口で、わかりやすく、面白い。
若干評論家風(実際評論家なのだが)で他人事なのは人によってはマイナスに感じるかもしれないが、内容自体は折り紙付きの一冊である。

☆☆☆★(☆三つ半)

他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://mongolia.seesaa.net/article/122705508.html
http://blog.goo.ne.jp/orionisorionis/e/85d68b66c3e08376389ccafc45094f06
http://blog.goo.ne.jp/higakinorihiko/e/bd9e0c0a561c9bbd51352d5282640afd
http://d.hatena.ne.jp/ktdisk/20090501/1241140355
http://return-to-forever.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-2ddb.html
http://tambourine.cocolog-nifty.com/dengon/2009/05/post-25c9.html

将棋のルールすら知らないという人や、アマチュアプレイヤー、プロ棋士までいろいろな人がこの本に触れています。
それだけ、将棋界にとっては衝撃の本だったのでしょう。
今まで将棋の本と言えば、プロ棋士か将棋道楽の作家、新聞の観戦記者(ほとんどセミプロ)が書いていたのですが、そうした本とは明らかに一線を画しています。
そうした書き手が出てくるのが遅すぎたとは思いますが、第一人者の羽生善治が明らかに衰える前に間に合ってよかったと言うところでしょうか。







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