頭の悪くない資本主義への疑問:21世紀の国富論 [社会]
最近は「新自由主義からの脱却」とか、「資本主義の限界」と言った主張に名を借りた共産主義的で頭の悪い主張が頻繁に見られる。
本書も、資本主義の限界を説いた本なのだが、決して共産主義に与したりはせず、理論的に語られている。
言うならば、まっとうな方法で現状への疑問を呈した本である。
【目次】
■はじめに
表舞台を去る「パソコン時代」の主役たち
ネットバブルはなぜ崩壊したのか?
アメリカに理想のガバナンスはない
市場万能主義は破綻しかけている
コンピュータを中心としたIT産業の終わり……ほか
■第1章 新しい資本主義のルールをつくる
ベンチャーキャピタルは死んだ
リストラとIRに奔走する経営者
ROEを株価に結びつけるのはたんなる流行
「企業は株主のもの」は間違い
公開企業のストックオプションは廃止すべき
「モノ言う株主」の言い分は矛盾している
ヘッジファンドを規制せよ
三角合併の何が問題か?……ほか
■第2章 新しい技術がつくる新しい産業
IT産業は、「脱工業化」でもサービス産業でもない
サービス業を成り立たせているのは技術
機械が人間に合わせる時代の到来
パソコンはおかしな工業製品
P to Pがインターネット本来のあり方
PUCの時代へ
PUCをリードする可能性がある日本……ほか
■第3章 会社の新しいガバナンスとは?
ビジョンが資本と出会ったとき、新しい会社が生まれる
シリコンバレーの成長を支えた精神
これからは新しい中小企業の時代
最大公約数的なマーケティングで新しいものは生まれない
ベンチャー企業の財務諸表は倒産前の会社に似ている
ベンチャーキャピタルに代わる新しい投資の仕組み……ほか
■第4章 社会を支える新しい価値観
ベンチャーキャピタルとの出会い
誰もやったことのないビジネスにお金を出す
アメリカンドリームに代わる新しい価値観
新しい資本主義と新しい民主主義の時代へ
新しい技術は「先進国」から、という構図は崩れる
バングラデシュではじまった新しい事業
援助ではなく、事業として位置づけることで持続性を高める
社会に貢献することが事業の目的……ほか
■第5章 これからの日本への提言
日本はチャンスを生かせるか?
PUCの時代に有利な条件をもつ日本
イニシアティブをとるための体制を
健全な株式市場がベンチャービジネスには不可欠
厳しいディスクロージャー制度を
中長期の経営を前提とした新しい市場をつくる
優れた人材を日本に集めるには?
「先進国」のなかでもっとも税率の低い国を実現する
世界から必要とされる二十一世紀の日本へ……ほか
■おわりに
二十一世紀へのビジョン――技術を使って世界を変える
筆者は米国でIT企業を対象としたベンチャーキャピタリストを職業としている。
その筆者が、米国型経営・資本主義・現在の所謂IT産業に疑問を投げかけているのが本書である。
筆者が投げかける疑問は、自らが深く関わっている業界に対するモノであるだけに、深く、正確な視点から出されたモノである。
感情的に資本主義を否定したり、勝算もなく昔に戻れば全て解決すると主張したりする、ちまたにあふれる意味不明な言論とは一線を画している。
それだけに、日本の未来を考える上では一読する価値が有る。
筆者の意見は日本の将来を考えている若手の官僚なんかにも受けそうな感じだ。
このように、本書は素晴らしい出来なのだが、欠点も一つ存在する。
それは、筆者が現在の日本を覆っている閉塞感に無頓着なところである。
日本で米国型経営が受け入れられるのはそれが素晴らしいと思われているだけが理由ではない。
それによってバブル崩壊後からつもりにつもった閉塞感を吹き飛ばせると淡い期待を抱いているからである。
筆者の主張に従って、日本の伝統を残そうとすれば閉塞感もまた残ってしまうだろう。
そこに触れて解決策を考えていれば満点だったと思う。
それでも、内容はしっかりしており、時間を使って読む価値は十分に存在する良書である。
☆☆☆★(☆三つ半)
他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://jinkichi.cocolog-nifty.com/bonjin/2009/08/post-da8b.html
http://blog.canpan.info/npogogo/archive/289
http://ryryry.blog57.fc2.com/blog-entry-717.html
http://renny.jugem.jp/?eid=502
http://booklog.kinokuniya.co.jp/masaishii/archives/2009/08/post_81.html
(微妙な評価のエントリ)
http://ameblo.jp/mansion-marketing/entry-10304998964.html
総じて評判はよいです。
総論賛成になりやすいような主張をされていますが、実は深いので読んでみていろいろなことを考えることが出来ます。
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