単なるアクションを超えたストーリー：蛇衆 [小説]
- 作者: 矢野 隆
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/01/05
- メディア: 単行本（ソフトカバー）
筆者はこれがデビュー作
小説すばる新人賞を受賞した本作品だが、読むペースが乗ってくれば文句なしに非常に面白いのだが、デビュー作だけに残念な欠点も存在する。
本書は読み始めが非常につらい作品である。
序盤は、
●誰の台詞か判別がつきにくい
●時代小説だが有名人が出てこないのでいつの時代かハッキリしない
●さらに、どの場所でどういった背景を元に争っているのかわからない
正直、これらの疑問が頭を占領して物語にのめり込むのに時間がかかる。
結局、本書は戦国時代初期（鉄砲の存在は臭わされているが、主人公はその存在を知らず、普及していない様子がわかる）の九州の物語なのだが、私はどういう思い込みか途中まで畿内の物語だと思っていた。
そのぐらい、物語の前提条件を掴むのに苦労した。
ところが、その苦労も1度物語の世界観を掴んでしまうととたんに報われる。
本書は最近流行の、スーパーキャラクターが活躍する時代小説なのだが、７人の蛇衆それぞれがおのおのの過去と共に鮮やかなキャラクターとしての個性を放っている。
実際にはあり得ない超人達なのだが、エンタテイメントとしての説得力は保つラインでまとまっている。
また、本書のストーリーをあえて書かなかった様に、二転三転する物語はミステリ顔負けの謎を読者に提供してくれる。本書のラストシーンは誰でも想像できる予定調和と意外な結末のミックスであり、単なる英雄譚・キャラクター活劇としての枠を超えた面白さを提供してくれている。
デビュー作だけ有って、粗も目立つし、気になる点もある。
それでも、欠点を補ってあまりある面白さと、次への期待を抱かせてくれる作品である。
☆☆☆★（☆三つ半）
他のBlogの反応はこちら
（ポジティブな評価のエントリ）
http://denki.txt-nifty.com/mitamond/2009/09/post-efb0.html
http://lmp.blog59.fc2.com/blog-entry-1144.html
http://t-saito.cocolog-wbs.com/tsaito_doc/2009/10/post-2a4a.html
http://blog.lv99.com/?eid=877513
http://1iki.blog19.fc2.com/blog-entry-676.html
（ネガティブな評価のエントリ）
http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/57881450.html
多くの人が書いているように、主人公達のキャラクターは非常にゲームっぽい。
筆者は私と同じ年の30代前半。ゲームに抵抗がない世代だろうし、そういったものの影響を受けているのかもしれない。
ネガティブ評価のすの、です（笑）。ＴＢありがとうございました。たぶん、普通の小説でなく、ただのラノベとして、エンターティメント作品として読むのなら、肩の凝らない、痛快小説で終わるかと思うのです。
でもせっかくの「小説すばる新人賞」なのだから、やはり期待してしまいますよね。
ぼくもこの作家が次の作品でどちらの方向に進むか、楽しみではあります・・・
by すの (2009-10-15 07:51)
>すのさん
コメントありがとうございます。
確かに文学よりもエンタテイメントに寄った作品でしたね。
最近の流行がそっちの方向なんだと思いますが。人によって合う会わないはハッキリしてくるのでしょう。
次の作品が楽しみなのは私も同じ感想です。
by book-sk (2009-10-15 22:23)
リンクありがとうございました。
楽しんで読める本でした。まあ、人が死にすぎるのはちょっとなんですが･･･。
トラックバックさせてもらいました。ありがとうございました。
by t-saito (2009-10-18 10:09)
>t-saitoさん
コメントありがとうございます。
人が死にすぎるのは、デビュー作で派手なのを狙ったからですかね……。
特に、孫兵衛あたりが死ぬのはちょっと唐突だった気もします。
by book-sk (2009-10-21 22:16)