ザ・昭和:華麗なる一族 [小説]
映像化もされた、有名な小説。
現代でも通用する人間観察力と、前時代的な産業状況の描写がいいコントラストを出している。
出版された当時の環境を知らない私の世代でも、その世代だから楽しめる読み方が出来るのはさすがだ。
本書の現代でも通じる部分。
欺瞞と疑心暗鬼、憎悪にとらわれた家族の中で、人間が歪み、それが故にさらに不幸になっていくという悪循環。そうした心理的な悪循環にはまった人間とその周囲の人間の不幸。
また、自らの欲望を達成するために、周りの人間を利用して切り捨てる強欲な人々。
そうした人々の存在が周囲の人間を傷つけ、そして、表面は繕っているものの自らもまた傷ついてゆく。
そうした人間のあり方の描写は、いつになっても変わらない。
そして、本書は人間の醜い部分に迫真の描写で迫っており、いつまでも変わらずに楽しめる力がある。
他方、時代を感じる部分。
それは政治・経済に関する描写だ。この部分は昭和という時代を感じる。
いわゆる護送船団方式の銀行行政の下で、配当の幅が認められただけで大騒ぎする銀行。
メイン・バンクに資金調達が左右され、外国からの資金導入もままならない産業界。
作れば売れる・インフレ基調の社会。
派閥と年功序列で出世できるサラリーマン人生。
政治家になるために、次官経験が有利だった政官の状況。
それら全てが、今では過去の物語であり、こんな時代もあったのだと逆に新鮮に映る。
この部分については、その時代を生きた人は懐かしい思いで読むことが出来るのだろう。
しかし、30代前半の私にとっては異世界の物語だ。
決してその時代を生きたいとは思わないが、ちょっとだけうらやましく思える部分もある。
今やピュアなフィクションとしてしか接することは出来ないそんな社会が、過去の日本に存在したことは不思議な気持ちにさせてくれる。
今更私がどうこう言うまでもない名著。
読んでいない人、特に、時間のある学生さんなんかにはお勧めである。
これだけのボリュームを社会人になってから読むのはなかなか大変なのだから――
☆☆☆☆★(☆四つ半)
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本書の内容に対して「華麗なる一族」というタイトルを付ける筆者のセンス・感覚はさすが。
その一点だけでも、売れる人は違うと思ってしまう。
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