現代は時代の転換点か否か?:学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識 [社会]
学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識
- 作者: 海老原 嗣生
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2009/12/18
- メディア: 単行本
投資を扱ったまっとうな本には、かならず、「過去正しかったことがこれからも正しいとは限らない」と言う説明が入っている。これは、過去●●年間で高いパフォーマンスを記録したファンドマネージャーが居たからと言って、今後●●年間で高いパフォーマンスを記録するとは限らないと言う事象の説明だ。
本書についても、同じような疑念を抱く。
筆者の主張は、過去の事象に対する説明はついている。
ただ、今後もこの傾向が続くかどうかは非常に疑念が残るのだ……。
【目次】
第1章 学歴のインフレーション
学歴と常識の間―秋田県も知らない若手社員
12年にわたる野放し状態―大学無試験化という危険な社会実験
早慶は昔の早慶ならず―数字が語る経営戦略と入学者の変容 ほか
第2章 人気企業が危ない
大学サークルに缶ビールを贈った大手企業―ランキング病?
秘技、旧帝大「生物・食品・農学部」卒―採用実績校のお化粧
就活の縮図、インターンシップ―偏差値と人気ランキングの泥仕合 ほか
第3章 若者はけっこうカワイソウじゃない
就職氷河を厚くした玄田論文―「過去企業への憧れ」という病根
就活期の景況で人生は決まらない―誰でも20代にチャンスは2回
「就社より就職」というウソ―13歳のハローワーク幻想 ほか
本書は大きく3部構成になっている。
第1章では、少子化に伴う大学生のレベル低下について、
第2章では、”人気企業”に就職することの無意味さと危険さについて、
第3章では、現代の若者は割を食っていると言う説の誤りについて説明している。
このうち、第1章で言う大学のレベル低下は全く持ってその通り。
筆者も言うように、日本の大学は中でビジネスマンとして役に立つ教育がなされない。そのため、少子化で入学してくる学生のレベルが下がると、卒業する新社会人のレベル低下に直結してしまうのだ。
安くない学費を払うのだから、卒業後の収入に結びつく、本当の意味での実学を学べる大学が出来るといいのだが、大学教授や文科官僚には期待出来ないのがつらい。
第2章では、”人気企業”に就職することの無意味さ、危険さについて。
これも、八割方その通り。大体、社会人の人だと”人気企業ランキング”の馬鹿らしさは見ただけでわかるだろう。今就職するとして、とても入りたくない企業が入っている。
例えば、人気企業ランキング常連のJTBなんかは給与も安いし、業界としてパイが広がっていくイメージが強い企業でもないのに何故人気か理解に苦しむ……。
ここまでは、筆者の言うことはストンと腑に落ちる。
但し、第3章の内容には、素直に信じることが出来ない。
この章における筆者の主張は、以下のようになっている。
①不況でも中小・ベンチャーは求人が多いので、とりあえず正社員として就職するに限る。
②日本では二年半の好景気と一年半の不景気が循環するので、就職時不景気だった人は、好景気になった第二新卒で転職すればいい。
③ただし、いわゆる氷河期世代はこの20代での転職チャンスが無かったので若干かわいそう。
(98年、99年卒業の学生は、次の好景気が07年、08年なので、20代に好景気下での転職チャンスは無かった)
このうち、①には異論無い。
フリーターや派遣を選ぶより合理的だし、大学でまともなビジネス教育が受けられない日本では、社員として初歩のビジネス教育を受けることは非常に重要だからだ。
但し、②、③については本当に氷河期世代が例外なのかどうか素直に信じられないのだ。
私は76年生まれで99年に大学4年生だったのだが、その時期に社会に出た人にとっては、氷河期世代の失われた10年が例外的に長い不況だったのではなく、07年08年の小泉政権末期の好景気が例外的に映るのだ。
筆者の説だと、09年、10年卒業の学生は不況の中で苦しい就活をすることになるが、中小企業にでも入ってしばらくしていれば11年、12年、13年頃には好景気になり、いい条件で第2新卒として転職できることになる。
それって、本当だろうか??
結果は4~5年後にならないとわからないが、私にはとてもそのようには思えない。
そういう意味では、氷河期世代の私が感じる感覚と、就職に携わってきたベテランである筆者の持論の齟齬。このギャップの正解を求めて、何年か後に読み返して見たい一冊ではある。
☆☆☆★(☆三つ半)
本書はこんな人にオススメ
・この何年かのうちに就職活動をする学生及びその保護者
・世代間格差論に興味のある人
・大学の問題点に興味のある人、大学生のレベル低下を感じている人
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(ポジティブな評価のエントリ)
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http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-374.html
http://blog.livedoor.jp/yoheitsunemi/archives/50956998.html
http://blog.goo.ne.jp/wfunakoshi/e/1a35ba64053e373d78f9df5709eba879
http://oobaoffice.blog28.fc2.com/blog-entry-1178.html
http://ameblo.jp/powervision/entry-10424380932.html
皆さん高評価。「前作」ほどのデータとインパクトはないが、その分あっさり読めるし、印象に残りやすい。
読んでみて損のない一冊だと思います。
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