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弱者に優しい方向転換:新しい労働社会―雇用システムの再構築へ [社会]


新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

  • 作者: 濱口 桂一郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/07/22
  • メディア: 新書



現在の日本における労働慣行が行き詰まっていることは、まともな人なら誰でも分かる
では、どうすればいいのか?その方向性に個性が出るのだ。

自由主義の観点から、解雇を自由化すれば、労働力の流動性が高まり正社員と非正規社員の不平等がなくなるという人もいる。それはそれで正しいのだろう。
だが、個人の立場から見ると、解雇の自由化によって解雇された人には痛みが伴う。
そこで、解雇を自由化するのではなく、労働者の権利を守りながら不合理な労働慣行を変えていこうとするのが筆者の立場だ。
【目次】
序章 問題の根源はどこにあるか―日本型雇用システムを考える
  日本型雇用システムの本質―雇用契約の性質
  日本の労務管理の特徴
  日本型雇用システムの外側と周辺領域
第1章 働きすぎの正社員にワークライフバランスを
  「名ばかり管理職」はなぜいけないのか?
  ホワイトカラーエグゼンプションの虚構と真実
  いのちと健康を守る労働時間規制へ
  生活と両立できる労働時間を
  解雇規制は何のためにあるのか?
第2章 非正規労働者の本当の問題は何か?
  偽装請負は本当にいけないのか?
  労働力需給システムの再構成
  日本の派遣労働法制の問題点
  偽装有期労働にこそ問題がある
  均衡処遇がつくる本当の多様就業社会
第3章 賃金と社会保障のベストミックス―働くことが得になる社会へ
  ワーキングプアの「発見」
  生活給制度のメリットとデメリット
  年齢に基づく雇用システム
  職業教育訓練システムの再構築
  教育費や住宅費を社会的に支える仕組み
  雇用保険と生活保護のはざま
第4章 職場からの産業民主主義の再構築
  集団的合意形成の重要性
  就業規則法制をめぐるねじれ
  職場の労働者代表組織をどう再構築するか
  新たな労使協議制に向けて
  ステークホルダー民主主義の確立


一つ前のエントリでも書いたように、正規雇用と非正規雇用の間にある不合理な差に代表されるように、今の日本においては終身雇用・年功序列による旧来の労働慣行は限界を迎えている。

それに対して、昔は良かったから、昔に返れというのは民主党左派や自民党右派の一部だけで、まともな人間なら新たな仕組みが必要なことに異論はない。

では、新しい仕組みをどうするか?
一番単純なのは、解雇の自由を雇用主に認め、費用対効果の低い社員を片っ端から解雇することで、全ての労働者は自らが提供した価値に等しい賃金を受け取れるようにすること。
いわば米国型の社会を目指す訳である。

個人的には、この方法が一番単純で手っ取り早いし、国が関与することによる制度の歪みも排除できるので最良の選択肢だと思っている。

ところが、この方法によると、理不尽な解雇をされる人が出てきてしまう。
長期的に見ると、理不尽な解雇を行う企業は業績が悪化して市場から退場させられるはずなのだが、短期的に見ると解雇されてしまった労働者は痛手を被ってしまう。
そこで、EU型とも言うべき、解雇権を制限しつつも、正規雇用と非正規雇用の差をなくそうとする筆者のような主張が出てくる。

この主張は今の日本の制度よりましなことは間違いないし、世間的にも米国型よりもは受け入れられやすいだろう。問題はある程度の社会的コストを覚悟しなくてはいけないことで、規制の少ない米国や、ルール無視の中国などと渡り合っていけるのかが疑問なところである。

このように、筆者の主張に賛否はあるものの、中身は筋が通っており、読みやすい。
現状の行き詰まりに対する処方箋の一種として、読んでおくのも悪くない。

☆☆☆★(☆三つ半)

他のBlogの反応はこちら
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2009/08/post-6cf4.html
http://blog.foxydog.pepper.jp/?eid=980252
http://d.hatena.ne.jp/chanm/20101003/1286118710
http://kousyoublog.jp/?eid=2405
http://ameblo.jp/mcguinness/entry-10324294459.html
http://cast-a-spell.at.webry.info/200910/article_13.html

皆さん高評価。
法律で派遣労働を禁止すると言ったトンチンカンな意見を言う人は、本書を読んでから発言して欲しいものです。





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