SSブログ

頭脳のピークは40代半ば??:イメージと読みの将棋観2 [将棋]


イメージと読みの将棋観2

イメージと読みの将棋観2

  • 作者: 鈴木 宏彦
  • 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
  • 発売日: 2010/05/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



前作のエントリはこちら
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2009-03-22-1

将棋のトップ棋士6人が江戸時代の棋譜を含む、過去の名場面についてそれぞれの意見を闘わせる将棋雑誌の名物企画。
本書を通じて、過去の棋士の凄さも分かるし、現在のトップ棋士の考えも正解にたどり着く道筋に違いがあることから個性が感じられて非常に味わい深い。

将棋好きなら(私のように棋力が低くても)十分に楽しめる一冊。

と、ここまでが、本書の一般的な紹介。

私が本書で興味を一番持ったのは「幕間テーマ」と題された以下の質問に対する回答。
・10年前の自分と勝負をしたらどっちが勝つか?
・10年後の自分と勝負をしたらどっちが勝つか?
脳力で勝負する人間が、自分の頭脳のピークを何時に置いているかが分かる、非常に興味深い回答だ。

【目次】
まえがき

第1章 序盤編

テーマ1 5五の龍中飛車は成立するか?
テーマ2 4手目△3三角は生き残るか?
テーマ3 先手石田流には何で臨む?
テーマ4 2手目△7四歩の誘惑
テーマ5 初手▲3六歩の奇手
テーマ6 3手目▲6六歩の対抗手段は?
テーマ7 3手目▲2五歩は次元が低い手?
テーマ8 4手目△6二銀にどうする?
テーマ9 一手損振り飛車は本当に有効か?
テーマ10 矢倉模様に右四間飛車は?
テーマ11 ▲2六飛型は死滅したか?
テーマ12 雁木はなぜ人気がない?
テーマ13 角換わり同型は永遠のナゾか?
テーマ14 一手損角換わりの不思議
テーマ15 復活した松尾新手

幕間
テーマ1「将棋観」詰み or 必至
テーマ2「将棋観」理想の持ち時間は?
テーマ3「将棋観」序盤力 or 終盤力

第2章 中盤編

テーマ1 大山-升田の名人戦
テーマ2 渡辺新手のその後
テーマ3 村山-里見戦の千日手
テーマ4 プロ最先端の相穴熊
テーマ5 居飛穴を攻める△6五銀急戦
テーマ6 羽生-森内の超急戦
テーマ7 正調と一手損の違いは?
テーマ8 一手損角換わり早繰り銀の攻防
テーマ9 正調角換わり早繰り銀の攻防
テーマ10 横歩取りの郷田新手
テーマ11 矢倉▲3七銀戦法の最新形
テーマ12 5筋位取りで勝てるか?
テーマ13 矢倉中飛車はなぜ減った?
テーマ14 鷺宮定跡
テーマ15 先手三間飛車に急戦はあるか?
テーマ16 三間飛車、急戦定跡の是非
テーマ17 四間飛車に▲4五歩急戦
テーマ18 升田、中原をひねる
テーマ19 老名人の勝負術

幕間
テーマ1「将棋観」10年前の自分と勝負
テーマ2「将棋観」10年後の自分と勝負

第3章 終盤編

テーマ1 大山-升田の激戦
テーマ2 升田幸三、驚異の構想
テーマ3 阪田-関根の決戦
テーマ4 天野宗歩の攻め
テーマ5 九代宗桂、少年時代の寄せ
テーマ6 江戸時代トップクラスの名局
テーマ7 渡瀬荘次郎の名局
テーマ8 升田、名人戦で時間切れ負け
テーマ9 大山康晴、神技の受け
テーマ10 升田幸三、鬼の攻め


まず、各棋士の回答を見る前に、将棋に詳しくない人に向けて、回答者の棋士の生年と本書発行時の年齢を描いておく。
※本書は雑誌連載の書籍化なので、実際に質問されたのは本書発行時の年齢より若い時期なのだが、何時にこの質問がされたかは不明のため、参考として本書発行時の年齢をwikipediaから計算して記載。

・羽生善治名人(1970年生、39歳)
・渡辺明竜王(1984年生、26歳)
・谷川浩司九段(1962年生、48歳)
・佐藤康光九段(1970年生、39歳)
・森内俊之九段(1970年生、39歳)
・藤井猛九段(1970年生、39歳)

それでは”10年前の自分との勝負”についての回答について
●羽生名人
(前略)10年前の自分と指してもそれ程大差にならないと思う。せいぜい、今の方が少し勝ち越すくらいでしょう。
●佐藤九段
今の方が知識が上回っているのは間違いないが、それで勝てるかどうかは疑問。でも、そうはいっても今の自分が勝つと思う。(後略)
●森内九段
10年前と言えば、20代最後の時期ですね。とりあえず若くて勢いはあった。しかし、知識としては今の方が遙かに上です。(中略)結果的には今の自分が勝ち越すと思う。10年間の知識の総量は大きいでしょう。
●谷川九段
それは知識は今の方があります。しかし、今は終盤力に難がある。だから良い勝負かな。
●渡辺竜王
10年前の自分?そんなのまだ三段時代じゃないですか。それじゃ今の自分が勝ちます。全部は勝てないけど、8割か9割は勝つ。自分の場合、25歳から35歳までの棋力はほとんど変わらないと思う。(後略)
●藤井九段
10年前の自分の方が終盤が切れたから、おそらく10年前の自分が勝つでしょう。(中略)結局、将棋は終盤力の勝負なんです。知識や経験はそれをカバーするためにあるんだけど、最後はそれだけでは勝てない


続いて、”10年後の自分との勝負”について。
●羽生名人
それは情報量の差はあるでしょうね。それがどのくらいになるか。しかし、これまでの10年間を考えてみてもそれ程の大差がつくことはない。よって、今の自分と10年後の自分が指しても良い勝負でしょう。
●佐藤九段
それは全く想像できない。(後略) ●森内九段
(前略)プロ棋士全体の知識は増えているでしょう。しかし、49歳の自分がその知識をどこまで身につけているかはナゾです。過去の例を見ても、棋士にとっての40代は難しい年齢だと思います。(後略)
●谷川九段
それは10年後の自分が自信ありません。10年後の自分も頑張っていて欲しいけど、勝負という点では今の自分が勝つでしょう。
●渡辺竜王
僕の場合、25歳から35歳までは同じ棋力が続くから、10年後の自分も変わらないんですよ。(中略)今は30代後半の棋士にやや疲れが見える。だから若手にとってはチャンスなんですよ。(後略)
●藤井九段
(前略)今の希望としては、10年後の自分は今より強くあって欲しい。実は、今の自分は棋士人生の中で最弱なんです。これから強くなります。


このように非常に興味深い回答が並ぶ。

まず、20代半ばの渡辺竜王の回答からは、力のピークは25歳~35歳と考えていることが分かる。
これは”プログラマ35歳限界説”なるものが言われるように、世間的な常識にも合致している。
ところが、39歳の4人の棋士の回答では、藤井九段こそはピークは過ぎたと思っているものの、他の3人(羽生名人、佐藤九段、森内九段)は20代後半の自分より今の方がパフォーマンスが高いと思っている。
さらに、40代後半の谷川九段にしても、”良い勝負”としてさほど衰えを感じていない。
おそらく、若い人が思うよりも脳を使うシーンにおける総合力のピークは後ろの方にあるのだろう。

では、そのピークは何時なのか?
40代後半の谷川九段は10年前の自分とは良い勝負だが10年後の自分は今の自分に勝つ自信はないと言っているし、森内九段も40代は難しいと否定的なニュアンスで語っている。
また、渡辺竜王は30代後半の棋士(おそらく、羽生名人を筆頭にした羽生世代を意識している)に疲れが見えているとしていることから、ハッキリ衰えが来るのは40代半ば~40代後半であると思われる。

少ないサンプルから強引な結論を導いたが、
・若い人が思うより、脳の総合力のピークは後ろ。
・曲がり角は40半ば~40後半ぐらい
と言う結論は面白い。

皆さんの中で、もう若くはないのだから頭がついていかないと言って、資格試験など新たに頭を使うチャレンジを諦めている人はいないだろうか?40半ばまでは大きな衰えは感じないのだから、あなたが30代なら新たなチャレンジにためらう必要は全然ない。それどころか、40前半でも十分にチャレンジする価値はある。
むしろ、30代で勝負から下りてしまうと、40代がますますきつくなるだろう

また、40代前半の人を年寄り扱いしている若い人。
40代前半では10年前から大きくパフォーマンスが落ちたと感じないので、そんな人を年寄り扱いしていると反感を持たれること間違いなし

この質問はあまり強くない棋士にも是非聞いてもらいたい。
この回答がトップの例外なのか、大半の棋士にも当てはまるのかは非常に興味がある。


このように、将棋と関係のない部分でも十分に楽しめる一冊。
全く将棋の分からない人はつらいけど、棋力が低くても、極端な話としては棋譜の部分を読み飛ばして地の文を読んでいるだけでも知的刺激は十分。
将棋雑誌と言うよりも、考え方のサンプルとして非常に面白い。

☆☆☆☆★(☆四つ半)

他のBlogの反応はこちら
http://yawa.blog.so-net.ne.jp/2010-09-04
http://lesailes.air-nifty.com/lifelog/2010/05/2-2010-045-0211.html
http://chesirecat0512.blog117.fc2.com/blog-entry-169.html
http://d.hatena.ne.jp/sangencyaya/20081016/1224149852
将棋専門誌の連載が元ネタだけあって将棋系のブログが多いのですが、その他の視点からでも十分に楽しめますよ。





nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。