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悪い環境は文字通り遺伝する:エピジェネティクス 操られる遺伝子 [科学]


エピジェネティクス 操られる遺伝子

エピジェネティクス 操られる遺伝子

  • 作者: リチャード・フランシス
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2011/12/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



私は高校時代生物を選択していたので、最低限の遺伝の知識は持っている。
つもりだったのだが、本書に書かれていることは全く初めて知ることばかりだった。

一卵性双生児は遺伝子的には同一なので、環境による影響はともかく、遺伝による影響は同一である。
この説明が正しいと思っているヒトは、是非本書を読んで欲しい。
遺伝に対する考え方が変わることまちがいなしである。

【目次】
序文 あなたの遺伝子がまとっているもの
第1章 おばあちゃんの影響
 オランダ飢饉の特殊性
 予想外に大きい胎児期の影響
 環境が遺伝子へ与える影響
第2章 遺伝という舞台の監督と役者
 みすぼらしく先進的な研究室
 「ハエの部屋」の成果
 遺伝子の実体
 遺伝子が実際にしていること
 遺伝子と形質の関係
 とらえがたい遺伝子
第3章 ステロイドの恐怖
 メジャーリーグ・スキャンダル
 テストステロンの副作用
 同じ遺伝子でも異なる影響
 細胞が受ける社会的影響
 カンセコ伝説の教え
第4章 遺伝子は世の中から影響を受ける
 精神的ダメージの縮図
 ストレス反応の違い
 子宮で起きることは子宮にとどまらない
 母親の子育ては遺伝する
 エピジェネティックな遺伝子制御
 ストレスとエピジェネティクス
第5章 フライドチキンと肥満遺伝子
 タイの子供と食生活
 倹約する遺伝子
 倹約遺伝子から倹約表現型へ
 肥満児の母親が妊娠中に食べたもの
 遺伝子発現を制御するヒストン
 何がパラドーンを太りやすくしたか?
第6章 世代を超えて社会的に遺伝するもの
 親のいないゴリラの社会性
 母のいないサル、育児放棄されたラット
 社会的遺伝
 曲がった若木はまっすぐ伸びるか
 遺伝以外に受け継ぐもの
第7章 シューアル・ライトの功績
 家畜からペットへの変貌
 「モルモットの部屋」
 アグーチ遺伝子
 真にエピジェネティックな遺伝
 なぜエピジェネティックな遺伝は起きないと思われていたか
 世代を超えるエピジェネティックな影響
 ライトの遺産
第8章 Xウィメン
 赤緑色盲との出会い
 なぜ男性は弱い性なのか
 二倍の遺伝子量を持つ女性
 クローン三毛猫のエピジェネティクス
 X染色体の不活性化と錐体細胞
 エピジェネティクスの恩恵
第9章 ウマロバ
 頑固なラバの作り方
 ママ由来かパパ由来か
 親由来の印=ゲノム刷り込み
 刷り込みを受けた遺伝子が発生に果たす役割
 環境ホルモンの影響/雑種問題
 ラバの変化
第10章 ウニはおいしいだけじゃない
 ヒトはなぜヒトになったのか
 ウニの実験とその影響
 前成説の死と復活
 幹細胞からあらゆる細胞へ
 マイクロRNAによるエピジェネティックな調節
 細胞の分化はリバーシブル
 幽霊に頼らない後成説
 待ち望まれる幹細胞の活用
 直観のせいで道に迷うとき
第11章 デビルに幸あれ
 タスマニアデビルの生涯
 地獄からやって来たがん細胞
 細胞ががんになるまで
 がんになるのは遺伝子か染色体か
 プロセスを逆行する、それがエピジェネティックな治療法
 がん細胞を取り巻く微小環境
 ダミアン神父は、聖人と見なされるべきか?
 悪魔と聖人


本書で一番衝撃的だったのは、親が受けた環境の影響は遺伝するということ。
妊娠中に飢饉が発生し、飢えた母親から生まれた子供は病気になりやすくなる。
この説明は他の本でも読んだことがあったのだが、本書で初めて知ったのは、その子供から生まれた孫にも影響があるということ。
これは、旧来の遺伝子に対する知識では理解の出来ないことだった。

本書を読めばわかるのだが、遺伝子の周りにはタンパク質があり、そのタンパク質が変化することによって、後天的に取得した性質が遺伝するというのが、最近では常識らしい。

従来では親と子供は生活環境が近いために、環境による影響で同じ病気になったりするという説明をされていた事例も、実は、文字通りの遺伝であるケースも存在する。
遺伝する範囲は思ったよりも広いので、子孫のためにも、悪い習慣は慎んだほうがいいだろう

では、親から受け継いだ遺伝は甘受するしか無いのか?
これもまた、従来からの常識とは異なり、遺伝で受け継いだものでも後天的に克服できるものもある。
これが、本書11章で書かれているタスマニアデビルの癌治療の話で、人間に適用されるのは相当先になるだろうが、医学の進歩に期待の持てる内容となっている。

遺伝が思ったよりも大きな力を持っていること、しかし、万能ではないこと

この不思議な間隔は本書を読まねば味わえない。
科学的な読み物としては、簡単ではあるが非常に興味深い、多くの人にお薦めできる内容である。

☆☆☆☆☆(☆5つ。満点)

他のBlogの反応はこちら。
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http://paxxmedia.blog38.fc2.com/blog-entry-1892.html
http://flowerandfish.air-nifty.com/hanatosakananohibi/2012/03/post-fbda.html
http://sciencecommunication.blog.so-net.ne.jp/2011-12-25-1

この分野の研究が進めば、人類はより一層進歩しそう。
私は、高校生の時代にゲノム解読が話題になっていた世代なので、その時の興奮もう一度というイメージを持ち、非常に興奮した読書でした。





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