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市場は非常に有効なツール。では、それの限界は?:それをお金で買いますか――市場主義の限界 [哲学]


それをお金で買いますか――市場主義の限界

それをお金で買いますか――市場主義の限界

  • 作者: マイケル・サンデル
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/05/16
  • メディア: 単行本



経済学に対する哲学からの問題提起。

市場は価値中立的で、常に生産性を向上させるという経済学の主張に対して、市場経済の適用そのものによって失われる価値があることを指摘している。

【目次】
序章 市場と道徳
第1章 行列に割り込む
第2章 インセンティブ
第3章 いかにして市場は道徳を締め出すか
第4章 生と死を扱う市場
第5章 命名権
謝辞
原注


本書が市場経済に対する問題提起の例としてあげているのは、行列の順番待ち。
例えば、先着順で座席が確保される議会の公聴会に対して、行列屋を雇ってお金で順番を買うことは正義か否か?
もっと極端な例で言うと、臓器移植の順番待ちに対して、お金を払うことで臓器を貧しい人から買ってくることは正義か否か?

経済学の立場では、双方が条件・金額に納得しているのなら、その取引に問題はない。
取引自体は正義でも悪でもなく、取引によってお互いの満足感が高まるのであれば、世界全体の満足感の総和が増えるのでその取引は良いことだとされる。

自分の権利を取引することの問題はないとするリバタリアンや、世界全体の満足感が増えることをよしとする功利主義者の立場からもこうした取引は問題無いだろう。

だが、コミュニタリアンの筆者はそこに問題を投げかける。
こうした取引は公正と腐敗の点から問題があるというのだ。

公正の問題というのは、貧しい人は目の前にお金を積まれると正しい判断ができなくなるというもの。
貧しい人からお金で臓器移植を受ける場合は、貧しい人は本当は嫌だと思っていても、お金が必要であるあまり承諾してしまうという問題だ。
そして、腐敗の問題というのは、議会の公聴会や臓器移植の順番待ちのような事例は、貧富の差を問わず順番で処理しようという精神で運用されているルールなので、そこに市場原理を持ち込むと当初の精神から外れてしまうという問題だ。

こうした問題があるがゆえに、市場主義を見境なく適用することは間違えており、市場を適用する場面とそうでない場面を区別した上で、市場を適用すべきでない場面からは市場主義を排除すべきであるというのが筆者の主張だ。

世界有数の哲学者である筆者が、ハーバード大という環境で世界有数の経済学者との議論を通じて得ることができた議論を披露しているので、筆者の言葉には非常に説得力がある。

では、筆者の考えは無条件で正しいのだろうか?
それを考えるのは本書を読んだ個人だが、私は筆者の考えもまた、問題があると思う。

市場による腐敗を嫌うがゆえに市場を閉めだしたことによって、非効率が極まることは善だろうか?
例えば、議会の公聴会における並び屋・順番取りを禁止し、本人が必ずならば無くてはならないとした場合、出席を望む大学教授がいた場合、彼・彼女は何の価値も産まない行列に多くの時間を割かなくてはならなくなる。
そのことによって、学生は授業を受けられなくなるなどの本業の滞りが出るし、本人の労働時間も増える。
程度問題かも知れないが、人気の公聴会があり、大学教授が1週間そこに張り付くような事態が生じる場合でも、行列の精神(無償公開の精神)は尊重されるべきだろうか?

また、市場を通じて提供される金銭は、それを得ることで社会に役だっているのではなかろうか?
金銭で順番を贖うためには、その金銭をどこかから獲得し無くてはならない。
そして、金銭は基本的に他人の役に立つことによってのみ獲得できるはずだ(税金や犯罪を除く)。
そうすると、金銭そのものには社会に対して善をなしたという価値があり、その提供した善を巡り巡って他の人から返してもらうための仕組みが金銭だとは言えないだろうか?

おそらく筆者はこのような考えには軽々と反論してくるだろう。
私もそうした点に対する反論は是非とも聞いてみたい。

このように色々と考えることの出来る本書。
市場原理主義を批判する新聞を読んで時間を無駄にするよりも、はるかにまともな頭の使い方ができる。

☆☆☆☆☆(☆5つ)

他のBlogの反応はこちら。
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本書を読んで思ったのは、最終的には程度問題に行き着くんだろうな……。というもの。
どこに線を引くかについて、筆者と私は違うし、多くの人もそれぞれの基準を持っているのでしょう。






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