福祉で保護される「国民」の範囲とはどこまでか?:反転する福祉国家――オランダモデルの光と影 [社会]
右派の人も、左派の人も必読の一冊。
日本が将来的に米国型社会(自由主義・小さな政府)の道をとらないなら、おそらくオランダに代表される大陸西欧型の福祉国家になるしか無い。
(国の規模や過去の歴史から考えて、北欧型の社会は難しい。)
そうした時にどんな世の中になって、どんな問題が起こるのか。
本書で示されたオランダの姿は、日本の将来像としての一つのモデルケースである。
【目次】
第1章 光と影の舞台―オランダ型福祉国家の形成と中間団体
現代政治の歴史的文脈
オランダにおける「保守主義型福祉国家」の成立
中間団体政治の形成と展開
第2章 オランダモデルの光―新たな雇用・福祉国家モデルの生成
大陸型福祉国家の隘路
福祉国家改革の開始
パートタイム社会オランダ
ポスト近代社会の到来とオランダモデル
第3章 オランダモデルの影―「不寛容なリベラル」というパラドクス
移民問題とフォルタイン
フォルタイン党の躍進とフォルタイン殺害
バルケネンデ政権と政策転換
ファン・ゴッホ殺害事件―テオ・ファン・ゴッホとヒルシ・アリ
ウィルデルス自由党の躍進
第4章 光と影の交差―反転する福祉国家
福祉国家改革と移民
脱工業社会における言語・文化とシティズンシップ
オランダは同一労働同一賃金が実施されているワークシェアリングの国として有名。仕事を分け合うことで、効率的な社会保障を達成している。日本のように正社員が高い給与をもらいつつ、同じ仕事をしている非正規社員がろくに給与をもらえないといった状況は存在しない。
反面、社会保障費を無制限につぎ込む余裕はないので、職安で紹介された仕事を拒否することは許されていない(仕事を拒否すると社会保障を打ち切られる)。
また、オランダでは政策決定に労働組合や地域団体が積極的に関与し、国民合意のもとで政治が進められている。日本のように、田舎の既得権層だけが自分の要求を政治に反映できる状況とは、やや異なっている。
反面、自由・平等・民主主義といった西洋の価値観を共有できないイスラム教徒は国家から排除・排斥する方向に動いている。この運動のポイントは、「イスラム教だからNG」とするのではなく、「西洋民主主義国家の理念を共有できない人をNG」とすることだ。
信教の自由も民主主義国家では重要な要素なので、宗教だけを理由に移民を排斥することは出来ないが、その西洋民主主義の理念に反する人を排除することを止める理由は見つけにくい。
このように、世界でも成功した部類の福祉国家でありながら、問題も多く抱えるオランダ。日本の行く末を考える良いヒントになると思う。
●韓国・中国系の永住者を拒否する右派は、民主主義を否定しない彼らをどういうロジックで拒否しようというのだろうか?
●人権派の左派は、ハローワークから紹介された仕事を拒否して生活保護を受給する人を弁護できるのだろうか?
●組織率が低下した労働組合が政治に影響力を持っている状況は正しいといえるのか?
●移民を拒否する人は、日本で生まれ育った人しかすまない日本列島を美しいと思うのだろうか?
日本の課題に一つの実験結果を示してくれるいい本だ。
☆☆☆☆☆(☆5つ。満点)
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タイトルにも書いたとおり、究極的にはどこまでを「国民」として保護するかというお話。
もちろん、その定義は納得性を持って世界に通用するものでなくてはいけません。
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