選択のアウトソーシングを自己決定しよう:選択の科学 [科学]
NHKの「コロンビア白熱教室」のテキスト。
同じ白熱教室つながりでも、「ハーバード白熱教室」と違って、「選択」という多くの人にとって重要だが思い通りに行かないことがテーマなので、取っ付き易い。
【目次】
オリエンテーション 私が「選択」を研究テーマにした理由
第1講 選択は本能である
第2講 集団のためか、個人のためか
第3講 「強制」された選択
第4講 選択を左右するもの
第5講 選択は創られる
第6講 豊富な選択肢は必ずしも利益にならない
第7講 選択の代償
最終講 選択と偶然と運命の三元連立方程式
本書は構成からして、非常に興味をひくように作られている。
まず、野生の動物に比べて環境・栄養の面で非常に恵まれているはずの動物園の動物の寿命が平均して短命であるという研究結果が述べられる。
これは、自らの意思で「選択する」ことの重要性を示すもので、選択肢がないということは寿命に影響をおよぼすほどの悪影響を与える。この研究結果に加えて、自らの意思で選ぶということが過大の効率性に大きな影響を与えるなど、「選ぶ」ことのメリットが本書の前半部分ではこれでもかというくらいに提示されている。
では、「選択する」ことは無条件で良いことであり、いかなる場合にでも「選択する」方がいいのだろうか?
その結果は、これから一ヶ月間の毎日の食事メニューを自分の意思だけで決めてみればわかる。もちろん、そんなめんどくさい「選択」は必ずしもプラスにならない。
このように、本書の後半では、選択することの限界が示される。
本書の後半で示される有名な実験結果は、ジャムの試食実験。
6種類のジャムと、数十種類のジャム。どちらを試食した人のほうが実際に「選択」という決断のプロセスを経て購入に結びついたのだろうか?
「選択」をすることの重要性を列挙していた本書の前半部分を読んだならば、より多くの試食選択肢があったほうが良いように思えるが、実験結果は真逆を示している。少ない選択肢を提示されたグループのほうが実際の「選択」に結びついていたのだ。
この実験からわかることは、「選択」はエネルギーを使う作業なので、選択肢が多すぎると人間の能力では処理が追いつかなくなり、そもそも選ぶことができなくなってしまうということ。
「選択」にエネルギーが必要なのは、鬱病明けの同僚と一緒に働いた経験があるとよくわかると思う。鬱病明けで本調子でない人は、定型的な作業などは比較的きっちりとこなすことが出来ても、自分で「選ぶ・決める」業務には負担を感じることが多いようだ。
このように、選択肢は有ればあっただけ良いというものではない。
むしろ、自分の意志で選択を他人(特に、専門家)に委ねる事のほうが重要。人間の能力には限界があるので、自分にとって得意で重要な選択に集中して、その他の苦手な選択や重要度の落ちる選択は他人に委ねていくことが人生を豊にするコツだ。
このように、本書で示されている「選択」に関する最新の研究はビジネスにも転用できそうなネタでいっぱい。このエントリで紹介した「選択肢が多すぎるのは決定につながらない」というネタは増えつつ有る小規模スーパーなどでは十分に活用されている。ナショナルブランド1種類かプライベートブランドの選択肢しか無い方が、買い物は捗るということが証明されている。
本書には、ここで紹介した以外にも「選択」に関する研究結果が数多く紹介されている。
ビジネスマンには当然有用だし、これからの人生が長く重要な選択を迫られることが多い学生は本書を読んで自分の選択の癖を掴んでおくと人生が豊かになるだろう。重要度の低い多くの選択をこなさなくてはならない専業主婦も本書によって助けられることが多いはずだ。
このように多くの人に間違いなくお薦めできる内容である。
☆☆☆☆☆(☆5つ。満点)
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http://d.hatena.ne.jp/shohyouta/20130304/1362405978
英語が分かる人は原書「The Art of Choosing」で、読書が苦手な人は映像「NHK DVD コロンビア白熱教室 DVD BOX」で見ると良いだろう。
更に本書が気に入った人には
こんな本も出ている。
タグ:☆☆☆☆☆ シーナ・アイエンガー
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