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公共事業投資の投資効率が低い理由の一つかも:自民党長期政権の政治経済学―利益誘導政治の自己矛盾 [歴史]


自民党長期政権の政治経済学―利益誘導政治の自己矛盾

自民党長期政権の政治経済学―利益誘導政治の自己矛盾

  • 作者: 斉藤 淳
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2010/08/12
  • メディア: 単行本



昔の自民党は選挙での協力を得るために、地元に鉄道駅や高速道路を引っ張って来ることが当たり前だった。と、誰もが信じているような内容だが、これは事実ではない。自民党長期政権時代の正しい政治家のあり方は、地元への利益誘導を謳いながらなにもしないことだったのだ。

その一見奇妙な仮説を論理的に説明したのが本書。
本書を見れば、有力政治家を多数輩出していても経済的に発展できない理由や、(金権政治の代名詞とされる田中角栄の娘である)田中真紀子が野党である民主党所属でやっていける理由などがよく分かる。
(どっちも、同じ根っこから発生した事象)
【目次】
序 第1章 自民党長期政権の謎:政治不信にもかかわらず政権が続いたのはなぜか
 I.はじめに:民主主義と自民党
 II.長期政権に関する従来の説明
 III.逆説明責任体制としての自民党
 IV.分析を進める上での仮定
 V.本書の概略:利益誘導政治の自己矛盾

第2章 自民党型集票組織と投票行動
 I.はじめに:民主主義と競争
 II.利益誘導:便益と票の交換ゲーム
 III.自民党型集票マシーンと利益誘導ゲーム
 IV.自民党以外の政党を支援した政治運動集団
 V.結語

第3章 人口動態と選挙戦略:長期的趨勢への政治的対応
 I.戦後経済と人口動態
 II.選挙結果
 III.人口統計による説明の限界
 IV.結語

第4章 支持率の変動と選挙循環
 I.はじめに:政治危機と公共政策
 II.政治危機と補償
 III.政治危機と解散時期の選択
 IV.政治的予算循環
 V.結語

第5章 集票のための補助金
 I.はじめに:分割支配のための補助金
 II.分配政治と地方自治制度
 III.選挙区間配分の計量分析
 IV.選挙区内配分
 V.結語

第6章 利益誘導と自民党弱体化:我田引鉄の神話
 I.はじめに:インフラと票田の荒廃
 II.インフラ整備と自民党得票:事例研究
 III.インフラ投資が票田を荒らす理由:理論的説明
 IV.インフラ完成までの生存時間解析
 V.インフラ投資の得票への影響
 VI.結語

第7章 利益誘導と政界再編
 I.はじめに:政界渡り鳥現象とインフラ
 II.1990 年代の離党・復党行動
 III.インフラ整備による説明
 IV.高速交通インフラと選挙:比較事例研究
 V.地図分析:議員の地盤と離党行動
 VI.計量分析
 VII.結語

第8章 選挙制度改革と政策変化:政権交代への道のり
 I.はじめに:細川政権が打ちこんた楔
 II.選挙制度改革と政権維持戦略
 III.政権維持のための適応
 IV.政権交代へ向けての変化
 V.結語

第9章 同時代史としての自民党長期政権:逆説明責任体制の帰結
 I.政治学と自民党
 II.政権維持動機と政府支出
 III.自民党と地域経済
 IV.結語

参考資料/索引 あとがき/謝辞


本書の理論の中止となっているのはゲーム理論。
政治家が利益誘導をする・しない。有権者が(自分の信念を曲げて)利益をもたらす政治家を選出する・しない。のモデルを構築した後、実際はどうだったのかを検証している。

学術書なので、厳密な定義は本書を見て欲しいのだが、大雑把に言うと、高速道路・空港・鉄道等の交通インフラを整備した場合、一回整備したインフラを撤去することはできないので、完成後に投票するインセンティブが失われる。加えて、インフラ整備の経済的利益は地域全体に及ぶので、自分の支持者に選択的に利益を与えることができない

そのため、インフラ整備を行った政治家はインフラが完成するまでは支持を集めることが出来るのだが、インフラ完成後に力の源泉が失われて、落選したり、党を移ったりすることが多くなる

逆に、経済的効果が殆ど無い土地改良や防災のための土建事業を行った政治家は、地域が経済的に発展しないため公共事業の威力が大きいまま残る上に、自分の意志で工事を割り振ることができるので力を保ち続けることが出来る

筆者はこの仮説を数学的に分析するとともに、興味深い有力な二人の政治家の事例を紹介している。
一人は長野オリンピックの公共事業で地盤にインフラ整備を行ったために、利益誘導の必然性を失い自民党を離党した(また、離党することができた)羽田孜。対する一人は、加藤の乱で上がり目が無くなったにもかかわらず(地元にインフラ整備が行き届いていないので)自民党に残り続けるしかなかった(が、選挙には勝ち続けることができた)加藤紘一だ。

政治家としてはどちらの道を歩むほうが幸せなのかは不明だが、地元に住む人にとっては、有力政治家の奴隷のように支持し続けるしか無いよりも、交通インフラの整備で地域全体が発展して利益誘導意外のポイントで政治家を選出できたほうが幸せに決まっている。
が、自民党の政治家も肌感覚でわかっているのか、現実は経済的効果の高いインフラ整備はめったに実施されず、意味のない国土強靭化のような公共事業だけが繰り返されるようになっている

政治と利益誘導のあり方について、マスコミの流す根拠なき思い込みを抜けだして実態がよく分かる一冊。難しい本だが、読んでみると非常に面白い内容だ。

☆☆☆☆★(☆4つ半)

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