今からやるべきことは？：人口蒸発「5000万人国家」日本の衝撃──人口問題民間臨調 調査・報告書

人口蒸発「5000万人国家」日本の衝撃──人口問題民間臨調 調査・報告書

• 作者: 一般財団法人 日本再建イニシアティブ
• 出版社/メーカー: 新潮社
• 発売日: 2015/06/30
• メディア: 単行本

本書の最初のほうで参考としてあげられている文献にハングルの書名があったので、トンデモ本かと思って読み進めていたのだが、中身はしっかりとした内容でした。

「増税による財政再建＋子育て関連社会保障増」が本書の主張なので左派的ではあるのだが、（左派系の本にありがちな）思い込みで突っ走る独善的内容ではないので非常に読みやすく、良い材料になる。

【目次】
第１章　首都圏ショック
人口減少は静かに、しかし確実に首都圏をも蝕んでいる。
すでに千葉県銚子市や神奈川県横須賀市など 外縁部から衰退は本格化し始めている。

第２章 地方の生活インフラの崩壊
人々が暮らしていく上で不可欠な「生活インフラ」の維持が、 人口減少によりどのように難しくなっていくのかを 綿密なデーターを元に検証する。

第３章 人口動態とマクロ経済・財政
日本経済が直面する最大の難問は、人口減少が進むなかで、 財政再建を図らなければならないということだ。
国債暴落という最悪の事態を避けるために何をすべきか

第４章 人口政策
なぜ人口問題は放置されてしまったのか？
その背景には戦前の軍国主義への反省、人口の変化に対する国の認識の甘さなど、 さまざまな要因があった。

第５章 国土（地方・行政）政策
国土のアンバランスな状況を解消するために 1960年代以降、大規模な地方開発政策が進められたものの、 思うような成果は得られなかった。
そんななか80年代後半からは、東京のみへの一極集中が進んでいる。

第６章　人口問題とシルバー民主主義
多数派となった高齢層が、若年層、次世代を搾取する。
これがいわゆるシルバー民主主義の問題だ。
世代間対立を回避するために何が必要なのかを考える。

第７章　人口増加策と財政
このままでは、日本は長期的な停滞に陥ってしまう。
それを防ぐ鍵を握るのは、大胆な少子化政策の断行と外国人労働力の活用だ。

第８章 人口・国土の最適再配置・エリアマネジメント・危機管理
地方都市再生の切り札として注目される「コンパクトシティ」。
その成否は人口密度をいかにコントロールするかにかかっている。

第９章 地域の人口減少にビジネスで対抗する
地域と密着しながら存続する企業は、 人口減少にあえぐ地域経済に活気をもたらす。
日本各地での成功例を紹介する。

本書は日本の人口問題について、政治・経済の面から考察を加えている。
このまま行けば人口減少は避けられないという至極もっともな情報を前提に、なぜこうした自体が引き起こされてしまったかを分析し、人口減少を食い止めるためにはどうすればよいかを考えるという当たり前の立て付けで話が進められていく。

本書の分析する人口政策が後手に回ってしまった原因は大きく2つあり、戦前の政策に対する嫌悪感と強力な推進プレーヤーの不在と分析している。
この分析はそれなりに良い線をついており、日本国の持続可能性を考えるならば急激な人口減少が明らかになった時点（遅くとも、1990年の1.57ショックの時点）で、人口増加に対する政策的な後押しを行うべきだったのだが、誰がどんな方法で実施するべきかを決めることができないまま現在に至っている。

これが日本国運営が厳しくなっても個人の選択に国家が立ち入ることは許されないので「少子化対策は行わない」という決断がなされていたのであればまだ納得できるのだが、実態は誰も何も言い出さないので何もされないまま現在に至っているのだ。かなり絶望的な状況である。

本書はこうした状況を踏まえつつ、今までの失政をサンク・コストとして割り切った上で今からどうすればよいかを論じている。
個々の結論については納得出来ないものもあるのだが、その姿勢は非常に共感が持てる。
今、政治が緊急に行わなければならないのがこうした取り組みだろう。


このように本書はアタリマエのことをアタリマエの方法で書いているのだが、その当たり前が意外と難しい。
本書でも指摘されているように、思い込みや好みによって左右されてきたのが日本の人口政策であるので、当たり前の話ができるというだけでもポイントが高い一冊といえるだろう。

☆☆☆★（☆3つ半）

他のBlogの反応はこちら。
http://mita-news.net/archives/44638696.html
http://sustainability.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/post-e9be.html

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