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私達は文字通り「時代遅れ」になるかもしれない:IQは金で買えるのか――世界遺伝子研究最前線 [社会]


IQは金で買えるのか――世界遺伝子研究最前線

IQは金で買えるのか――世界遺伝子研究最前線

  • 作者: 行方史郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2015/07/21
  • メディア: 単行本



遺伝と環境のどちらが才能に影響するのかについてはかなり研究が進んでいる。
例えば、このエントリで取り上げた「心はどのように遺伝するか―双生児が語る新しい遺伝観」にあるように、能力のうち遺伝の占める割合が大きいのはかなり昔からわかっていた。

では、遺伝の割合が大きい能力を出生前診断や遺伝子操作にお金をかけることで獲得できるのか?というのが本書で取り上げられている問題だ。
学術的な解を求めるのではなく、ビジネス・法規制・社会規範の面から問題を取り上げている点が本書の新しいところである。

【目次】
第1章 「究極の個人情報」の価値と値段―個人向け遺伝子検査ビジネスのからくり
第2章 遺伝子はだれのものか―遺伝子利権争奪戦
第3章 裏切る遺伝子―才能と努力と遺伝子と
第4章 天才遺伝子を探せ―IQ最強人間への誘惑
第5章 人はいつ人になるのか―生命の定義論争
第6章 「ジーンリッチ階級」は誕生するか―デザイナーベビーの予感
第7章 妊婦たちの選択―広がる新型出生前診断
第8章 人間の「質」に介入する時代―「消費者優生学」の足音


遺伝子・出生に関するビジネスについては日進月歩。
最新の状況は本書を見てもらえればよいのだが、単純化すると以下のとおり。
・男女の産み分け⇒技術的にも可能。サービスも存在する
・遺伝病の出生前診断⇒技術的にも可能なものも多数。サービスも存在する。日本でも新型出生前診断が解禁されたニュースを覚えている人も多いだろう。
・髪の色、眼の色等の遺伝選択⇒技術的にはおそらく可能。まだサービス化はされてない。
・能力(知能・筋力等)の遺伝選択⇒現時点では技術的に不可能。

既に男女の産み分けや、ダウン症等の遺伝病の診断は実施されている。
ただ、知能や筋力等の能力に関する遺伝子操作や出生前の診断については、現時点において知能等を司る遺伝子の働きが完全に解明されたわけではないので、技術的に不可能だ。

だが、本書で近い未来における問題提起もされている。
能力・筋力・性格などのいわゆる「能力」に関する遺伝子が解明されるのは時間の問題。
そうした時に優秀な子供を選択するサービスを提供する企業は必ず現れる。
その時、どうするのがいいだろうか?という問題だ。

一番多く予想される回答は、行き過ぎた出生前の選別や遺伝子操作は人道に反するので規制しようという回答だ。
だが、日本で規制しても米国でサービスが開始される可能性はある。もっと言うならば、国際機関で協調的に規制することを決めても、中国でその規制が守られるとは限らない。
規制の協調が守られないならば遺伝子操作を禁止している国は遺伝子操作を認めた国に対して、平均で見た際の能力が世代を経るごとに劣ってくるというハンデを追うことになる。
そうした事態が目に見えているのに、遺伝子操作・選別を禁止することは正しいのだろうか?
むしろ、貧富の差によって生まれつきの能力差が出ないように、公的保険で遺伝子操作を認めるべきではないのか……。

本書は新聞記者が書いた本なので、賛否両論の意見が書かれている。
それをお金で買いますか 」にあるような、絶対に許すべきではないという考えもしっかりと紹介されている。筆者もおそらく、遺伝子操作・選別の行き過ぎに反対する立場だ。

だが、本書を読めば読むほど、遺伝子操作に反対するのは容易ではないとわかる。
本書は下手な道徳の教科書よりもよっぽど面白く、悩ましい。

☆☆☆☆☆(☆5つ。満点!)

他のBlogのエントリはあまり見つからず。
非常に良い本なのにもったいない……。







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