三井不動産とフューザーの共通点とは:耐震偽装―なぜ、誰も見抜けなかったのか [社会]
三井不動産の杭打ち不全マンションが世間を騒がせている中、以前に同じように世間を騒がせ、マンションの安全性への信頼を損ねたフューザー・姉歯事件をまとめた一冊。
「日経アーキテクチュア」編集長であった筆者だからこそ書ける業界を俯瞰した内容は、今回の事件に対する示唆にも富んでいる。
【目次】
第1章 ヒューザー過ちの軌跡
第2章 建築基準法への疑問
第3章 ブラックボックス化する構造計算
第4章 構造設計者の境遇
第5章 確認審査の実態
第6章 マンショントラブルの構図
第7章 躯体コストからの発想
第8章 どうすれば安全なマンションに住めるか
付録 マンションユーザーのための対応マニュアル50条
本書は、フューザー事件はなぜ起こったのか?を切り口に、再発防止・安全性の高い物件を選ぶためのポイントをまとめている。
参考になる箇所あり、今回の三井不動産の事件によって考えなおすべき部分もあり、今読むと当時とは違った味わいで楽しむことができる内容だ。
まず、本書が書くフューザー事件が起こった理由は2つ。
一つは、コストダウン要求が厳しい時期にはチェック機能が働きにくくなるということ。
業界のおかしな所なのだが、チェック機能は事業主(マンションデベロッパー)が委託する設計事務所に負うところが大きい。そのため、設計料がケチられるようになると、チェック機能も働かなくなってしまう構造があるのだ。
この点は、今回の三井の事件でも同じだと思われる。
フューザー・三井と同じ時期に施工したマンションで不具合が発生しているところから見ると、当時のコストダウン圧力は大きく、チェックをするだけの建築士が確保できていなかったのだろう。
もう一つは、悪意を持って構造計算をごまかそうとされると、確かめるすべは殆ど無いということ。
今回は構造計算をごまかしたわけではないのだが、悪意の偽装を見ぬくことは出来なかった。
つまり、フューザー事件と同じ背景があって、今回の事件も発生しているといえるし、今後も同じような事件が発生してもおかしくないといえる。
では、筆者はこうした状況にどう対処すべきと提案しているのか?
一つはチェック体制の抜本強化(異なる建築事務所によるピアチェック)と構造に関する徹底した情報公開。
この対策は行政への提言であり、消費者がなにかできるものではない。
今回の事件をきっかけに、筆者の提言が見直されることを期待するぐらいだ。
もう一つの提言は、なるべく大手のマンションを選ぶこと。
大手デベロッパーは独自の品質基準を持っているし、設計料をケチることも少ないので比較的安心できるとしている。
この部分が今回の三井の事件を受けて一番考えさせられる部分である。
住友・三菱も不具合を起こしているだけに、大手だからといってそれだけで信頼できるわけではないことが明らかになった。
が、表に出ていないだけで中小施工の物件には同じように不具合があるのだろう。
(マンションだけでなく、一戸建てやオフィスビルにもあると思う)
事後の保証を考えれば大手のほうが信頼できることは変わっていないが、安全な物件を手に入れるためには売り主の信頼に頼るやり方は間違いだということが証明されてしまった格好だ。
全体的に見ると、感情論に走ることもなく、文系の読者にもわかりやすい語り口で書かれており、非常にうまくまとまっている。
今回の事件に応用できる見方も多いので、古い本ではあるがおすすめできる。
☆☆☆☆★(☆4つ版)
筆者はWeb上で今回の事件を始めとした、マンションの問題について結構文章を書いているが、かなり良心的(まとも)だ。筆者の文章は読む価値があるので、まずはWebの記事を見てみるのもいいだろう。
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