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世襲がなくなっていくのは戦後日本経済の勝利か。:世襲格差社会 - 機会は不平等なのか [社会]


世襲格差社会 - 機会は不平等なのか (中公新書)

世襲格差社会 - 機会は不平等なのか (中公新書)

  • 作者: 橘木 俊詔
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/05/18
  • メディア: 新書



読むに堪える文章を書ける珍しい左派の橘木教授の新書。
世襲に関する経済面からの分析は非常に興味深い。

世襲が「おいしい」事象に見えるのは、「おいしくない」世襲が行われなくなってきたから。
当たり前のことなんだけど、目から鱗の指摘が本書の核心だ。

【目次】
第1章 二極化する世襲
第2章 世襲の歴史的背景
第3章 継がれなくなりつつある仕事
第4章 親から子どもに継がせようとする仕事
第5章 継ぐか、継がないかを分かつもの
第6章 世襲の功罪
終章 機会の平等を考える


本書が指摘する世襲に関する分析と、本書から想像できる近未来の世襲の分析は非常に興味深い。

まず、冒頭にも書いたように、現在の世襲に関する状況としては、零細農業など経済的に「おいしくない」世襲が行われなくなりつつある結果、「おいしい」世襲だけが目立つようになってきている。
地方の農業・伝統工芸・宗教(坊主や神主など)といったごく少数の経済的に儲からない世襲も現時点ではわずかに残っているが、遠からず消えていくだろう。
もはや、土地持ちの農家に生まれても儲かる見込みがないなら跡を継ぐ必要はどこにもないのだ。

逆に、議員や医者など「おいしい」世襲は積極的に行われることから、経済的に有利になることが多い世襲は不平等だという認識が世の中にははびこってくる。

と、ここまでが本書の主な内容であり、非常に納得できる。
だが、本書の続きを自分なりに考えていくと、日本から世襲がなくなる日も遠くないように思える。

その理由は、芸能(歌舞伎・落語など)の一部を除けば、「おいしい世襲」の大部分を占める医者・議員という職業が公的セクターに属するからだ。
議員はそもそもが公職だし、医者は公務員でない人のほうが多いものの医療費が国のコントロール下にある以上、その収入は公によってきめられているといえる。
国家財政が好転する兆しを見せず、税負担の割合が増えていく状況で、世襲者の割合が高まっている公的セクターの待遇維持を行うことができるだろうか?常識的には非常に難しいはずだ。
だとするならば、他の世襲同様親が子供に積極的に跡を継がせたいと思わなくなる可能性は高く、現在生き残っているわずかな世襲も遠からずなくなっていくのだろう。

もちろん、本書が指摘するように、非世襲の代表的な職業である会社員の待遇が非正規の増加等によって下がっている今、「おいしくない」とされている世襲でも最悪のセーフティネットになっているという面はある。
これからどんどん景気が悪くなって来れば、世襲が復活してくるという逆のシナリオも十分にありうる。

このように、マスコミは形式的に批判して終わりの「世襲」。
経済的に考えると非常に興味深い。
新書としての分量もちょうどよく、経済的な思考実験の素材としては非常にいい一冊だ。

☆☆☆☆(☆四つ)

http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20160601/1464829367






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