カネが回っていないのがすべての原因:地方創生大全 [社会]
地方再生のプロが、現在の間違えた地方創生に対してダメ出しをする一冊。
東洋経済の連載がベースになっている。
本書の主張は非常に単純で、「地方が衰退する理由はまともにカネを稼ぐ場所がないから」と当たり前のことを言っているに過ぎない。
ところが、本書で"ダメな例"として書かれている内容は非常に興味深く、上記の当たり前のことが全く地方では理解されていないことが非常によくわかる。
本来、過疎も少子化も原因は地方ではまともな仕事がないということに尽きるのだが、そこには目をつぶって無駄な税金が垂れ流されている様子が非常によくわかる。
【目次】
第1章【ネタの選び方】「何に取り組むか」を正しく決める
ゆるキャラ
大の大人が税金でやることか?
→地元経済の「改善」に真正面から向き合おう
特産品
なぜ「食えたもんじゃない」ものがつくられるのか?
→本当に売りたければ最初に「営業」しよう
地域ブランド
凡庸な地域と商材で挑む無謀
→売り時、売り先、売り物を変え続けよう
プレミアム商品券
なぜ他地域と「まったく同じこと」をするのか?
→「万能より特化」で地方を救おう
ビジネスプランコンペ
他力本願のアイデアではうまくいかない
→成功するためには「すぐに」「自分で」始めよう
官製成功事例
全国で模倣される「偽物の成功事例」
→「5つのポイント」で本物の成功を見極めよう
潰される成功事例
よってたかって成功者を邪魔する構造
→成功地域は自らの情報で稼ごう
第2章【モノの使い方】使い倒して「儲け」を生み出す
道の駅
地方の「モノ」問題の象徴
→民間が「市場」と向き合い、稼ごう
第3セクター
衰退の引き金になる「活性化の起爆剤」
→目標をひとつにし、小さく始めて大きく育てよう
公園
「禁止だらけ」が地域を荒廃させる
→公園から「エリア」を変えよう
真面目な人
モノを活かせない「常識的」な人たち
→「過去の常識」は今の〝非常識〟だと疑おう
オガールプロジェクト
「黒船襲来! 」最初は非難続出
→「民がつくる公共施設」で税収も地価も高めよう
第3章【ヒトのとらえ方】「量」を補うより「効率」で勝負する
地方消滅
「地方は人口減少で消滅する」という幻想
→人口増加策より自治体経営を見直そう
人口問題
人口は増えても減っても問題視される
→変化に対応可能な仕組みをつくろう
観光
地縁と血縁の「横並びルール」が発展を阻害する
→観光客数ではなく、観光消費を重視しよう
新幹線
「夢の切り札」という甘い幻想
→人が来る「理由」をつくり、交通網を活かそう
高齢者移住
あまりにも乱暴な「机上の空論」
→「だれを呼ぶのか」を明確にしよう
第4章【カネの流れの見方】官民合わせた「地域全体」を黒字化する
補助金
衰退の無限ループを生む諸悪の根源
→「稼いで投資し続ける」好循環をつくろう
タテマエ計画
平気で非現実的な計画を立てる理由
→「残酷なまでのリアル」に徹底的にこだわろう
ふるさと納税
「翌年は半減する」リスクすらある劇薬
→税による安売りをやめ、市場で売ろう
江戸時代の地方創生
なぜ200年前にやったことすらできないのか?
→江戸の知恵を地方創生と財政再建に活かそう
第5章【組織の活かし方】「個の力」を最大限に高める
撤退戦略
絶対必要なものが計画に盛り込まれない理由
→未来につながる前向きな「中止・撤退」を語ろう
コンサルタント
地方を喰いものにする人たち
→自分たちで考え、行動する「自前主義」を貫こう
合意形成
地方を蝕む「集団意思決定」という呪い
→無責任な100人より行動する1人の覚悟を重んじよう
好き嫌い
合理性を覆す「恨みつらみ」
→定量的な議論と柔軟性を重視しよう
伝言ゲーム
時代遅れすぎる、国と地方のヒエラルキー
→分権で情報と実行の流れを変えよう
計画行政
なぜ皆が一生懸命なのに衰退が止まらないのか?
→誤った目標を捨てよう
アイデア合戦
現場を消耗させる「お気楽アイデアマン」
→実践と失敗から「本当の知恵」を生み出そう
目次のように、本書はヒト・モノ・カネ・情報の面から町おこしの間違えた事例を紹介している。
地方創生のあるべき姿は、「カネを稼ぐ力を持った人を支援してまともな仕事を創出する」ということに尽きるのだが、現在の地方ではそうした当たり前のことが理解されずに、ヒト・モノ・カネが浪費されてしまっている。
まるで、まともに考えることができる人の大半が都市部に出てしまい、出がらしの人材しか残っていないかのように思えてしまう。
もちろん本当のところは地方再生のプロである筆者が言うように、地方にも稼ぐ力を持ち現在の状況を正しく理解できる人材は存在する。
が、悲しいかな、そうした人物は地方行政のメインストリームにいないことが多く、税金を使う立場にある人々によって資源が浪費されてしまっているのだ。
本書で紹介されている失敗事例と成功事例を読めば、地方再生の一丁目一番地がなんであるかが非常によくわかる。
あとは、地方で決定権を持つ人たちがいかに再生を邪魔しないかがポイント。
正直な感想としては、現在地方で力を持っている地元の有力者や地方行政の高級官僚・有力政治家といったキープレーヤーの能力を見ると、本書で言っている当たり前の内容が理解できるとは思えない。
自治体がバタバタと破綻して一回リセットされるまでは何も変わらず、緩やかな衰退を続けるようにしか見えないのだが、まだポイントオブノーリターンは超えていないはず。
とはいえ、日本、特に地方に残された時間は多くないだけに、多くの人に読んでほしい内容だ。
☆☆☆☆★(☆四つ半)
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