単なる悲観でも、無意味な楽観でもない現実:デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論 [経済]
元ゴールドマン・サックスのアナリストで、現在は日本の文化財修復会社で社長を務める筆者が語るニッポン経済復活への方策。
筆者は日本の観光業、日本経済について様々な本を出しているのだが、本書が一番言いたかった内容(=集大成)なのだろう。
バブル時代から日本を見続け、なお、見捨てていない筆者の提言には学ぶべきところが非常に多い。
【目次】
第1章 日本はほとんど「潜在能力」を発揮できていない
第2章 「追いつき追い越せ幻想」にとらわれてしまった日本経済
第3章 「失われた20年」の恐ろしさ
第4章 戦後の成長要因は「生産性」か「人口」か
第5章 日本人の生産性が低いのはなぜか
第6章 日本人は「自信」をなくしたのか
第7章 日本型資本主義は人口激増時代の「副産物」に過ぎない
第8章 日本型資本主義の大転換期
第9章 日本の「潜在能力」をフルに活用するには
本書のポイントは3点ある。
一つ目は、日本はすでに貧しい国になっており、その原因は生産性の低さにあるということ。
この点については、当たり前だと思う人と、意外に思う人(筆者に反発する人)の両極端に分かれる部分だろう。
筆者がその理由も分析済みで、マスコミの報道などではGDP世界第3位などという経済大国であるかのような表現が多い。
だが、そのGDPの高さは人口の多さに起因するものが多く、購買力調整後の一人当たりGDPでは世界台27位。第28位の韓国と大差ない位置につけている。
人口が多いため、国別のGDPでは世界第3位なのだが、一人当たりでみた場合はもはや世界トップレベルからは完全に脱落している状況だ。
そうした状況にもかかわらず日本人には危機感がない人も多いため、筆者はくどいぐらいに本書で日本の現状を啓発している。
本書の第二の主張は、日本が貧しい国になった原因。
筆者はその原因を生産性の低さに求めており、その理由をわかりやすく解説している。
この点に関するポイントは、労働生産性の低さは必ず改善できるということ。
過去、バブル時代にも意味不明な規制は今以上に数多く存在し、それを指摘した筆者に対して、慣習や法制度に基づく「できない理由」が数多く挙げられた。
が、バブル崩壊後に経済を立て直すなかで、そうした意味不明な規制の多くは改められ、法改正されだいぶ合理化されてきている。
とはいえ、現在にも数多くの意味不明の規制が残っており、かつ、それに対しては改めることのできない理由が主張されている。
そうした生産性の足を引っ張る活動が多いために、日本の生産性が低いのだと筆者は主張している。
最後に、本書における第三の主張は、生産性の低さを改め、再び日本が豊かな国になるための処方箋。
生産性の低さを主張する人は、労働者に生産性の向上を求める論調であることが多いのだが、筆者は労働者ではなく、経営者にその原因を求めている。
比較的質の高い労働者が多い日本において、生産性を高めるて労働者の給与を向上させることができない経営者が無能であり、その首を替えることで生産性を高めることができるとの主張が本書の特徴だ。
日本の生産性の低さは女性のみ活用から来る低生産性や、ITを活用できていないことによる生産性の低さが挙げられる。その改善は経営者の職務であり、職場をIT化してそれに応じた労働者を雇用・訓練して生産性を上げる代わりに、労働者の給与を絞って利益を上げている経営者の害悪を筆者は主張している。
(もちろん、労働分配率を単純に上げろという左翼的発想ではなく、労働者側にも生産性に応じた報酬とすることを求めている)
全体的に見て本書は、禁輸緩和(や、特定の対策)をすれば万事OKとする楽観論でもなければ、人口が減っていく日本は衰退が運命づけられているという悲観論でもなく、非常に常識的なラインをわかりやすく説いている。
耳の痛い表現も多いのでベストセラーにはならないだろうが、経済に興味のない有権者の多くに知ってもらいたい非常によくできた一冊だ。
☆☆☆☆☆(☆五つ。満点)
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by 大町阿礼 (2017-08-25 21:06)