誰にとっても中途半端:妻恋坂マンション: あなたのマンションは騙されていないか? [小説]

妻恋坂マンション: あなたのマンションは騙されていないか? (徳間文庫)
- 作者: 鬼島 紘一
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2016/02/05
- メディア: 文庫
マンションの悪い面を際だたせると、こんなふうになるという小説。
マンションの欠陥を強調したほうが売れるのはわかるけど、現実的ではないな・・・
と感じずに入られない小説。
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不動産関係のTwitterで話題になった一冊。
早速読んでみました。
物語の舞台は郊外バス便のニュータウン(モデルは多摩ニュータウン)。
バブルが崩れかかった90年台前半にニュータウンを中古で購入した一家が主人公。
5,200万円で購入(住宅ローンは年利6.9%で4,200万円)した4LDKだが今売却すると1,500万円にしかならない。
自主管理のマンションで今回理事が回ってきたのだが、40歳代後半の主人公一家は理事の中で2番めに若く、殆どは分譲当初に購入した70歳代後半の住人。
そんなニュータウンでの人間模様と事件を描くのが本書なのだが、筆者の実体験に基づいているだけあって非常に興味深い事例が多い。
・管理組合の理事長がボケていて同じ議題が繰り返される
・等価交換方式での建て替えはすべての事業者に拒否される
・子供の出来が悪い家庭は自主建て替えによる資産価値向上(多くの財産を残せる)に唯一の希望を託し、子供の出来がいい家庭は修繕による終の棲家を目指す意見対立。
・ニュータウンを脱出した主人公一家の娘の同級生二人だが、一人は練馬区の狭小邸宅、もう一人は板橋区の欠陥住宅。
・理事会の定年制が老人たちの数の力で可決され、若い住人は老人たちの奴隷状態に
・地方自治体へコミットする力が弱く、前向きな支援が得られない
などなど、非常に興味深いネタが展開され、綺麗に回収されている。
結論は人によってハッピーエンドと捉える人もいれば、救いのない結論だと捉える人もいる、パンドラの箱に残った希望状態の結論だ。
以下は、本書を読んで私の思ったことや、不動産関係Twitterで語られている結論への感想など。
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(前略)
でも実際には「完全に世界から遅れてしまっているビジネス常識」を、白地から5年間、とことん仕込まれ、そのやり方に染められるてしまうことの害は、多くの人が想像するよりはるかに大きいとちきりんは思ってます。
特に、「素直で一生懸命学ぶ人」にいたっては、取り返しが付かないことになる可能性さえある。だっていまさら、そんな遅れたやり方を徹底的に学んでどーするよ?的なことになるわけで・・・
この、狂ったビジネス常識を教えこまれた人がどうなるか?というのがよく分かる小説。
本書に出てくるビジネスマンはほぼまともな人が居ない……。
職人としての医者:スリジエセンター1991 [小説]
「ブラックペアン1988」、「ブレイズメス1990」の若き日の世羅シリーズ。
正直に言って、「ジェネラル・ルージュの凱旋」以降は本編よりもこっちのシリーズのほうが面白い。
本編は医療行政への批判が濃くなってきているが、本シリーズでは技術職としての医者の魅力が描かれている。実在の人物を取材した「外科医 須磨久善」も本書へのインプットとなっているのだが、技術を極めた医者の魅力が本書からは漂ってくる。
筆者が世に問いたいことからは外れるのだが、本書に出てくるような人々のほうが本編で語られる問題よりも単純に楽しめる。
☆☆☆☆(☆四つ)
他のBlogの反応はこちら。
http://blogs.yahoo.co.jp/gaya1214/62533571.html
http://d.hatena.ne.jp/Toshi-shi/20130808/1375912068
http://lazymiki.blog110.fc2.com/blog-entry-1634.html
http://horiken.at.webry.info/201310/article_7.html
http://mayumusic.blog.so-net.ne.jp/2013-07-31
個人的には、坂田局長がチェスを理解しているシーンが一番衝撃的。頭の回転も悪く無いじゃん……。