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誤りが証明されている:「新中流」の誕生―ポスト階層分化社会を探る [社会]


「新中流」の誕生―ポスト階層分化社会を探る (中公新書ラクレ)

「新中流」の誕生―ポスト階層分化社会を探る (中公新書ラクレ)

  • 作者: 和田 秀樹
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 新書



本書を読むに当たって一番注意しなければならないこと。
それは本書が2006年に出版された本であると言うことである。
本書が出版された2006年9月と言えば、小泉首相が惜しまれながらも引退し、安倍首相に交代した時期である。


【目次】
第1章 経済心理学から見た格差社会
第2章 新学歴社会で学力は上がるか?
第3章 トヨタに学ぶ新中流の強さ
第4章 アメリカ、中流崩壊の教訓
第5章 北欧、スイスに学ぶ新中流社会
第6章 リベラルからソシアルへ


本書の主張を要約すると、小泉政権下で行われた規制緩和は誤りで、累進課税強化によって再配分機能を強化し、中流層を厚くすることで、ボリュームのある国内市場の形成・治安の安定と言った効果が見込める。それによって日本の国力、競争力が回復すると言うものである。
筆者はそうした、再配分によって厚みのある中流階級を作っている国の例として、おきまりのように北欧諸国の例を挙げている。

そして、現在は2009の8月。出版からほぼ3年がたっているが、筆者の主張が誤りだったことはもはや明らかである。

まず、筆者の言う中流を手厚くすることで繁栄していたはずの北欧諸国は、格差によってぼろぼろのはずの米国よりも経済危機による通貨危機でダメージを受けてしまっている。
今、一番調子のいい中国はひどい格差社会だが、それについては何も言及されていないように、筆者の考察が欧州・米国中心で、アジアに向いていないのも気になる。

また、日本の例としては、筆者は終身雇用を維持し、社員に利益を配分して「中流」を作り出している企業としてトヨタの例を挙げている。
データによると、愛知県は高卒と大卒の賃金格差が最も少ない地域であるらしい。

もちろん、今このような主張を聞いて信じる人はいないだろう。
トヨタが作りだし、養っていた「中流」は大量の派遣社員という社外の奴隷によって支えられていたのだし、大卒社員と賃金格差の少ない高卒社員の多くはバブル以前に雇われた高齢層だ。
(新人はほとんど大卒なので、若年者の混ざる大卒は給与が低くなる、従来高卒で採用していた人のポストは派遣に置き換わったので、高卒社員は高齢化する)
なんのことはない、学歴格差はないけど、もっとたちの悪い世代間格差があるだけなのだ。


このように、言っていることは「昔に返れ」と言うことなのだが、昔の悪いことは無視している典型的な老人脳だ。
情緒的には同意できる部分もあるのだが、本書の多くは、現実を見ていない上に根拠がないたわごとでしかない

筆者は精神医学者としては優秀なのかもしれないが、経済・社会を見る目は落第点。
思い込みで理想論を語っている新聞記事並みのクオリティしかない
解決策を気にせず、筆者の問題意識をエッセイとして読みたい人が手に取るべき本である。売れっ子だけあって、文章自体は非常にうまくまとまっています。

☆☆(☆二つ)

本書を読んで気になったのは、既に破綻していると思われる本書の主張に似たことを、今回の衆議院選挙で公約とする政党が多いこと。
日本の世論の流れを筆者が読んでいたのだとすればすごい。
筆者は、こんなくだらない内容を書くより、どうやったら世論の流れに乗れるのかを解説してほしい。
逆に自民党も民主党も本書の様な情緒論を真顔で主張することはやめてほしい。


他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://plaza.rakuten.co.jp/tigersyakult/diary/200702250000/
http://kaysaka.blog.so-net.ne.jp/2007-09-19
http://yosoji.cocolog-nifty.com/40/2006/09/post_0fd2.html
http://www.gesource.jp/weblog/archives/2007/09/post_94.html

ポジティブな評価のエントリが多いが、その多くは出版直後の2006年~2007年に書かれた物。
一瞬は正しく見えるのだろう。
今振り返ると、とても賛成できないのだが……。先を見て評価するというのは非常に難しい。





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