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江戸時代の経済と三都の特徴:辰巳屋疑獄 [小説]

辰巳屋疑獄 (ちくま文庫 ま 34-1)

辰巳屋疑獄 (ちくま文庫 ま 34-1)

  • 作者: 松井 今朝子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/09/10
  • メディア: 文庫
江戸時代の巨大コングロマリットとも言うべき辰巳屋の疑獄事件を通じて、商家の内実がきっちりと描かれている。しかも、話の中で三都(江戸、京都、大阪)の気質の違いが明確になっているので、そのような視点からも楽しめる秀作。
本書は徳川吉宗の時代における、大阪の大商人辰巳屋の跡継ぎ騒動をめぐる騒動が疑獄事件に発展する様子を描いている。
 
物語の中心となる辰巳屋は当事の大阪一の炭問屋兼金貸し。現代の感覚だと、東証一部上場のコングロマリットといったところだろう。
その中で中興の祖の跡継ぎをめぐってさまざまな人が、己の欲望・信念にしたがって行動するさまが描かれている。頭でっかちの三男坊、忠義一徹の番頭、山っ気のある手代、他国(泉州)の大商人などなど、魅力あふれる登場人物が己の信念・欲望に従って織り成す人間模様は最高に面白い。
 
また、「金は世間の回り物ではない、金が世間を回す」と言った大阪の辰巳屋手代伊助。金に毒された世を憂い、さまざまな抵抗勢力に反対されながらもベストを尽くす寺社奉行大岡越前。大阪者からは薄情に見えるが、いざという時は頼りになる京都の公家、烏丸。このように当事の三都の気質がしっかりと出ているので、地域性の差を楽しむにももってこい。
私は大岡越前は確かに潔白で有能だが、貨幣経済の時代には取り残されてしまっているように見えるのだが、それは私が大阪出身で、大阪の気質が一番しっくり来るからかもしれない。
 
惜しむらくは、内容の割には分量が少ないことだが、それでもはしょられた感は無く、人物性・経済・土地の気質と楽しむことがいっぱいあり、歴史小説に抵抗の無い人には間違いなくお勧めできる。
 
☆☆☆☆(☆四つ)

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