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日本画業界の裏面を鋭く描いた作品:蒼煌 [小説]


蒼煌

蒼煌

  • 作者: 黒川 博行
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/11
  • メディア: 単行本



お金や品物をばら撒いて自分に投票してくれるように依頼し、票読みを行い、当選を目指す。
と言っても、本書は政治がメインテーマではない。日本画家が芸術院会員を目指して芸術院選挙を行う物語である。

本書は、黒川博行が日本画業界の裏面を描いた傑作。
芸術院会員をめぐる会員選挙を通じて、日本画壇の身も蓋もない現実があらわにされている。
この本を読んだ後に美術館に行くと一枚いくらと言う目で見てしまいそう。

日本画の世界にはれっきとしたランクがあり、入選し、特選を受賞し、芸術院会員に成り、文化勲章を受章するといった明確なステップがあり、ランクが明確にされている。
まるで、政治家が初当選→当選数回で政務次官→さらに回数を重ねて大臣→最終的には総理大臣、とステップをふむように芸術の世界でも同じようなことが行われている。

そうすると、必然的にうえのステップを目指して賄賂・接待が繰り返されることに成る。本書では芸術院会員と言う政治家の大臣ポストに匹敵するような重要なポストをめぐって老齢の日本画家が繰り広げる熾烈な運動を中心にストーリーは展開されていく。

また、絵画の世界は政治とも無縁ではいられない。
ニュース等で耳にすることも多いが、賄賂の提供において絵画を利用したスキームは余りにも一般的である。
本書では、そうした政治と芸術のつながりも明確に描かれており、ストーリーの転換における重要な鍵を握っている。

黒川博行の美術物と言えば本Blogでもレビューした短編集「文福茶釜 」もあるが、本書のほうがよりディープな部分を描いていながらも、救われた気分になる。
なぜなら、本書の登場人物は名誉欲やしがらみから、賄賂を贈って芸術院を目指したり腹黒い行動を行ってはいるが、芸術に対する尊敬もまた持ち合わせており、絵がうまいのは当然でそれから先を目指して運動をしているのだ。
そこが、絵に対する尊敬を欠いていた「文福茶釜 」の登場人物とは異なるのであろう。

黒川博行お得意の人が死なないサスペンスであり、人を引き込む力を十分に持った物語である。

☆☆☆☆(☆四つ)

本書の「文福茶釜 」のエントリはこちら
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-04-12




他のブログの反応はこちら等。
黒川博行の小説らしい部分と、他のシリーズとは異なる部分があるので、そのことについて述べた反応が多い。
それでも、過度に否定的な反応はないので、大きな欠陥はなく好き嫌いの範囲で収まる作品であるのだろう。
http://tmxxb1973.blog82.fc2.com/blog-entry-674.html
http://blog.livedoor.jp/snake10244/archives/51220542.html
http://blog.goo.ne.jp/fdj/e/2ad30943b724e49db7a2ff2bc11b0108
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