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現代でも違和感無く読めるミステリ:火車 [小説]


火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1998/01
  • メディア: 文庫



もっとすごい! このミステリーがすごい! (別冊宝島 1503 カルチャー&スポーツ)」による、この二十年の第一位。
テーマ・登場人物の魅力・小説としてのスピード感が発売から15年たっても色あせていないのはさすが。


本書は、借金地獄にはまった女とその行方を追う休職中の刑事の物語。
徐々に明らかになっていく借金地獄には待った女の行動の恐ろしさと、そうした行動に及ばざるを得なくなった背景の説得力が秀逸である。

「多重債務者達を、ひとまとめにして『人間的に欠陥があるからそうなるのだ』と断罪するのは易しいことです。だがそれは、自動車事故に遭ったドライバーを、前後の事情も何も一歳斟酌せずに、『お前達の腕が悪いからそうなるのだ。そういう人間は免許なんかとらないほうがよかったんだ』と切って捨てるのと同じことだ。

私が引用したこの文章を今から15年前に書けた宮部みゆきは本当にすごい。

現実世界ではインターネットの普及で高金利の借金が生活を壊すことが常識と成り、やっとグレーゾーン金利が撤廃されたことを思うと、時代の先を見通して、なおかつそれを一級の小説に仕上げるのはさすがとしか言いようがない。

また、小説の内容も一般的な犯人当てやクライム・ノベルと異なり、ちょっとした疑問を紐解いていくと思わぬ犯罪が明らかになる過程が緻密に描かれており、読んでいて飽きることがない。
今、改めて本書を読んで感じたのは、疑問に遭っては先を知りたくなり、結果を知っては先に書かれていたことがすとんと胸に落ちる上質のミステリが持つ心地よさである。

若干都合がいいと思えるシーンがないわけではないが、偶然は小説には付き物であり、登場人物の魅力・ストーリーの迫力から構成される本書の魅力を減じるほどではない。

本書を一度読んだことのある人も、今、もう一回読み返してみる価値のある本である。

豆知識:いとこの子供は「いとこ甥」「いとこ姪」らしいです(出典Wikipedia)。

☆☆☆☆★(☆四つ半)

余談だが、宮部みゆきは本書で1992年度下期第108回直木賞を逃している。そのときの受賞作と候補作は以下。
受賞作「佃島ふたり書房
他の候補「風の渡る町」「打てや叩けや源平物怪合戦」「清十郎
どう見ても、火車で宮部みゆきに賞を与えなかったのは失敗に見える……。



他のブログの反応はこちら等。
社会派部分に重点を置くか、ミステリ部分に重点を置くかで読み方は分かれるみたいですが、どちらにしても評判は悪くないようです。
一部には重たい・難しいとの意見もあるのが逆に不思議ですが……。
http://nanaeighteen.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/post_e956.html
http://literaturegirl.blog110.fc2.com/blog-entry-119.html
http://coralfish.blog120.fc2.com/blog-entry-465.html


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