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食欲で始まって吐き気で終わるミステリ:禁断のパンダ [小説]


禁断のパンダ

禁断のパンダ

  • 作者: 拓未 司
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2008/01/11
  • メディア: ハードカバー



この本を読み始めると、おいしい料理を食べに行きたくなる。特に、高級フレンチへ。野菜の癖のある味、魚のあっさりした魅力、濃厚なソースのかかった肉料理のインパクト。こういった本当の味を味わいたくならずにはいられない。

でも、この本を読み終わったら、吐き気がしてくる。
ミステリでありながら、こんな風に食欲と絡めて語るしかないのが本書である。

本書は神戸の超人気フレンチレストランで起こった殺人事件を解決するために様々な謎を解いていくストーリー。
はっきり言って、ミステリ部分は読みやすいし、あまり驚きもない。本書の魅力はあくまでも文字を通して語られる食事の魅力である。
本書を読んでいると、絶世の料理が目の前に現れたかのように、食欲が刺激される。
食事の描写シーンは問題なしどころか、比類無いものだといえる。

ただ、キャラクターの魅力自体は正直アンバランスだ。
悪役のゴッド中島とヴァンサン神父はとてもキャラクターが際だっており、生き生きとしている。悪役なので決して魅力的ではないのだが、特に中島などはこの事件にリアリティを持たせるだけの力を持ったキャラクターだといえる。
タイトルにもなっている「禁断のパンダ」に関するエピソードを語る際の中島は鬼気迫っており、タイトルに深みを与えている。

逆に、事件を解決する側の、ビストロのオーナーシェフで主人公の柴山幸太や刑事の青山は中途半端に感じられた。柴山の料理人としての腕はすごいのだろうが、もっとすごい料理人が出てくるためぼけているし、青山もただ単に浮いた刑事としか思えない。
警察が自力で謎に迫る場面と、主人公が巻き込まれて活躍する場面が半々ぐらいの割合で、どちらが悪に迫るのかがはっきりしないのと相まって、いまいち正義の側に魅力が感じられない。

このように、本書は料理の描写は特上、悪役の描写は上、正義の描写が中~下とバランスの悪い作品になっているところが残念な作品だ。
辻調理師学校卒業の経歴を持つ筆者だけに、食事の描写は天下一品。これを生かした次回作を見てみたくはある。

最後に、超一流の食事描写がたたって、最終シーンは若干吐き気を催すものになっている。昔読んだ「闇の子供たち」のように、毒のあるシーンで埋め尽くされているわけではないが、最後のシーンは確実に毒のある食が描かれている。
そういうシーンに耐性のない方はご用心を。

【参考】「闇の子供たち」のエントリはこちら
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-03-01

☆☆★(☆二つ半)

他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価)
http://nyan-toka.blog.so-net.ne.jp/2008-09-06-1
http://bboocc.blog19.fc2.com/blog-entry-667.html
http://ameblo.jp/pyuri/entry-10120348648.html
(ニュートラルな評価)
http://tsuna11.blog70.fc2.com/blog-entry-1161.html
(ネガティブな評価)
http://yaplog.jp/mapi-blog777/archive/214
http://marimo2star.blog118.fc2.com/blog-entry-73.html

結構ネガティブな評価も見受けられます。ミステリ部分の問題とラストの後味の悪さによるものでしょう。同じ作者の続編も見てみた気がするのですが、一発で終わりですかね……。

蛇足ながら、ミステリ部分は結構穴も多く、私は何であの単語がフランス語で書かれているかわかりません。ロシア・北欧あたりの言語ならわからなくはないですが。カナダ産なのかな?カナダ産って言うのは何となく無理がありそうなんだけどなぁ。


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