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恐怖の未来?それとも心地よい未来?:その数学が戦略を決める [社会]


その数学が戦略を決める

その数学が戦略を決める

  • 作者: イアン・エアーズ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/11/29
  • メディア: 単行本



コンピュータの進歩に伴って、大量のデータから統計を取ることが容易になり、「絶対計算」によって多くの事実が明らかになっている現在の社会を描いた本書。
山形浩生の絶妙の翻訳もあり、人間の行動までもがはっきりと計算で予測できるようになる、一昔前のSFが現実になった現在の社会をうまく描いている。

【目次】
絶対計算者たちの台頭
第1章 あなたに変わって考えてくれるのは?
第2章 コイン投げで独自データを作ろう
第3章 確率に頼る政府
第4章 医師は「根拠に基づく医療」にどう対応すべきか
第5章 専門家vs.絶対計算
第6章 なぜいま絶対計算の波が起こっているのか?
第7章 それってこわくない?
第8章 直感と専門性の未来


本書の訳者後書きにも書かれているように、日本ではまだまだ絶対計算の活用は進んでいない。それでもAmazonの「New For You」や「あわせて買いたい」機能、google adsenseの個人向け広告などで、人の行動を計算した広告にはなじみがあるのではないだろうか。

本書は主に米国の例が挙げられているのだが、ワインの価格や、野球選手の評価に絶対計算が導入された例が第1章で紹介され、第3章の政府が政策を行うに当たって壮大な実験をしてデータを集め、そのデータに基づいた計算によって政策を決める様子や、第4章の医師が診断を行うに当たって、勘と経験だけでなくデータベースと計算によって診断を行う例が紹介されている。

病院に行くと、医師の判断ではなく、データベースに基づいたコンピュータの計算で診断が下される。
重要な政策が、実験から導かれるコンピュータの計算で決定される。
刑務所からの仮釈放の可否が刑務官の判断ではなく、データベースに基づいた計算によって決定される。
こうした社会をあなたはどう思うだろうか?

第7章にあるように「それってこわくない?」と不安に思う人が多いだろう。
過去の買い物履歴から、自分がどれだけ払えるかを計算された上で、最も高い価格を提示されたり、専門家の仕事がコンピュータに取って代わられてしまう等の不都合も予測される。
それにもまして、日本人には何となく気持ち悪いと思う人が多いのではないだろうか?私はその漠然とした不安感が日本で絶対計算がはやらない大きな2つの原因の1つだと考えている。
ちなみに、もう一つは、アホみたいな個人情報保護法だ。

私の個人的な意見を言えば、専門家の判断がコンピュータに置き換わるのは大歓迎。正直に言うと、医者の個人的な判断より、全世界のデータベースに基づくコンピュータの判断の方が正しいと思うし、信頼できる。
私のような人間は日本では少数派だと思うが、ミスをしない・判断のばらつきがない上にどんどん正確になってくる絶対計算は人間よりもよっぽど信頼できると思う。
本書を読んで、私は絶対計算が恐怖の未来ではなく、心地よい未来をもたらしてくるように思えた。


なお、本書の第8章は確率思考を実生活に生かすちょっとした知識が紹介されている。2SDルールとベイズ推定だ。
2SDルールは、平均から正負を問わず2標準偏差の範囲に入る確率が95%であると言うこと。本書で挙げられている例は、知能指数の平均は100で標準偏差は15であり、この場合は、知能指数70(100-15×2)から130(100+15×2)の間に95%の人間が入ると言うことを意味する。

ベイズ推定は、スパムフィルタの理論として名前を聞いたことはあったが、その内容は知らなかったのだが本書でその概要を理解できた。ベイズ推定は新しい条件を取り込んで確率計算を更新することに利用できる。本書で挙げられている具体例を引用する。
40歳の女性のうち、定期的な検査を受ける人は1%乳がんにかかっています。
乳がん女性の80%は、マンモグラフィで陽性を示します。乳がんなしの女性10%も、マンモグラフィで陽性を示します。
さて、この年齢グループにある女性が、定期検査のマンモグラフィで陽性になりました。この人が本当に乳がんである確率はいくつ?

回答を☆の後に白色で書いておくので、気になった人は反転して読んでみてほしい。
この2SDルールと、ベイズ推定の紹介だけでも確率計算の威力が十分に分かると思う。

本書は、確率の威力と、その実際社会への影響を骨の髄までしみこませてくれる良書である。

☆☆☆☆★(☆四つ半)

検査を受ける女性1000人のうち、1%の10人は実際に乳がんで、そのうちの80%である8人はマンモグラフィで陽性になる。
他方、乳がんでない残りの990人のうち、10%の99人は擬陽性を示す。
そのため、1000人のうち、陽性を示す人は8人+99人で合計107人。そして、107人のうち本当に乳がんなのは8人である。
そのため、マンモグラフィで陽性を示した人の乳がんである確率は107人中8人なので、8/107=約7.5%
と言うことで、答えは7.5%思ったより低かった人が多いのではないだろうか?



他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://shimalog.exblog.jp/7692337/
http://www.david-entertainment.com/weblog/archives/2008/11/post_839.html
http://d.hatena.ne.jp/T-norf/20081016/SuperCrunchers
(ニュートラルな評価のエントリ)
http://blog.livedoor.jp/iti2/archives/51169598.html
http://yo-yaku.blog.so-net.ne.jp/2008-11-09-1
http://ikadoku.blog76.fc2.com/blog-entry-140.html
(ネガティブな評価のエントリ)
http://irvin.s12.xrea.com/blog/archives/2008/10/_super_cruncher.html

本書については結構賛否両論。おもしろさには触れずに淡々と内容を消化しようとするエントリも多かったです。
ちなみに、関連する書籍として挙げられることの多い「ヤバい経済学」は私も読みましたが、こちらも非常におもしろく、お薦めの本です。増補改訂版が出ているんですね。




ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]

  • 作者: スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2007/04/27
  • メディア: 単行本











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