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医師と患者の間にある深い溝:まず石を投げよ [小説]


まず石を投げよ

まず石を投げよ

  • 作者: 久坂部 羊
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2008/11/07
  • メディア: 単行本



医師資格を持つ作家、久坂部羊の最新作。
今作のテーマは、医師と患者との間の信頼関係だ。
本書のストーリー

医師が自ら医療ミスを認めて、すすんで遺族に賠償金を支払った。この奇特なニュースに医療ジャーナリストの綾乃は興味を引かれ、自分のライフワークにするために取材を開始する。
賠償金を払った医師の三木は医療ミスは認めるが、患者のためにやったものではないと自ら告白する。また、三木の元妻も登場して三木の非人道性を訴えて三木を貶める。
さらに、医療ミスは何故隠蔽されるのかというテーマでTV作品を作ろうとする宍村は社会的に許されるかどうかのボーダーラインにある実験を強行してしまう。
本書は信頼をテーマに物語がすすんでいき、意外な結末を迎える。医療ミスの隠蔽を責めることができるのはいったい誰なのだろうか。


本書のキーワードの一つは信頼関係。
患者の側が医療ミスや、ミスの隠蔽が多発することを背景に医者を信頼できなくなっていることは、本書を読むまでもなく一般論として多くの人が持っている感想だと思う。

しかし、医者の側も禁止された行動を繰り返し、不摂生を改めようとしない患者を信頼していない。
本書の重要人物三木が主張する内容だが、この点には一理ある。そして、そうした医者と患者の相互不信と同じ構図は社会のいろいろなところに現れている。
本書で指摘されたのは、弁護士とクライアント、マスコミと取材対象者だが、そのほかにも警察と一般市民、教師と生徒も同じ関係にあるのだろう。
本書は相互不信の関係について考えさせられる小説である。

テーマは重苦しいが、内容自体はさほど読みにくかったり、「廃用身」、「無痛」の様にグロテスクなわけでもない。
サスペンス色が強い作家なので、刺激は強いのだが、通勤電車で読んでその日一日がどんよりするような作品ではない。

内容も、信頼がテーマなだけに、「誰を信用すればよいのか」と言うところが最後まで決まらない、スリルあふれる作品に仕上がっており一気に読める。
テーマ性、エンタテイメント性ともに高いレベルでまとまった良作である。
医療不信が高まっている中、読み物として本書に挑戦してみるのは非常に面白い経験になると思う。

☆☆☆★(☆三つ半)

参考:
本書の登場人物宍村が医師は何故医療ミスを隠蔽するのか?と言う問いに対して、実験を行うシーンがあるのだが、その実験のモデルにされているのが「服従の心理」で紹介されたアイヒマン実験だ。
意外と筆者も新訂版が出た「服従の心理」を読んで書いたのかもしれない。
私が「服従の心理」について書いたエントリはこちら
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-12-22

他のBlogの反応はこちら等。
(ネガティブな評価のエントリ)
http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/56635739.html
http://sister.typepad.jp/books/2009/02/post-6bc3.html
http://wakubuku.seesaa.net/article/114079532.html
http://yottyann.at.webry.info/200902/article_3.html
(ニュートラルな評価のエントリ)
http://blogs.yahoo.co.jp/kuri617/58539935.html
(ポジティブな評価のエントリ)
http://korox.blog123.fc2.com/blog-entry-1250.html

実はこの人、医者の間の評判がすごく悪い。
「医師は非常識な人が多い」と言ったのは時の首相だが、この人も医師資格を持っていながら同じ認識を持っているとしか思えないためだ。私も、久坂部羊が医師について語ったり、医師と患者の関係をテーマにした本書を見ると認識はすごく偏っていると思う。
でも、それは久坂部羊を医者だと思うから腹が立つこと。この人は医者じゃなくて作家だと思って、対応すればそんなに腹は立たないでしょう。
石田衣良に労働問題のインタビューをするようなモノで、興味を持った素人さんの意見として扱うべきです。
この人の才能はどっちかというと作家にあるはずなんだし……。






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