右翼・左翼の思想からワーキングプアを論じる愚:貧困と愛国 [社会]
佐高信と雨宮処凛の対談集。
この二人の名前からわかる以上の出来ではない。
平たく言うと、時代遅れの思想家が老人に向かって語った本である。
【目次】
第1章 廃墟に閉じこめられたフリーター
第2章 学校は戦場だった
第3章 「生きさせろ!」という生存運動
第4章 サラリーマン社会のなかでの闘い
第5章 生存のための共同性
第6章 右翼と左翼を超えて
第7章 フリーター国際主義
●赤木智弘にも及んでいない
本書の出だしは赤木智弘の「『丸山眞男』をひっぱたきたい----31歳、フリーター。希望は、戦争。」についての二人の思いを語るところから始まるのだが、これがレベルが低すぎて悲しくなる。
佐高信は、ワーキングプアを守るのは丸山眞男の思想であると語り、「丸山眞男」の名前に引っ張られたトンチンカンな解釈をしているし、雨宮処凛は高齢ワーキングプアは悲惨だという当たり前のことしか語れていない。
赤木智弘の思想も問題が多いが、一番の問題が世代間格差であり、中高年の既得権層のせいで若者が割を食っているという問題意識だけは正確だ。佐高信と雨宮処凛は世代間格差について本書で言及できていないのだから、赤木智弘のレベルにすら到達できていないと言わざるを得ない。
●「新自由主義」批判は的外れ
佐高信は左翼の立場から、雨宮処凛は右翼の立場から「新自由主義」を批判するのだが、そのレベルは新聞の域を出ていない。「新自由主義」は悪いと言うだけで、何の代案も出せていないし、経済成長を捨てて日本が良くなるビジョンも描けていない。この二人にとっては、日本が等しく貧しくなっていくことが希望なのだろう。
●右翼、左翼で雇用問題を語るべきではない
本書は右翼、左翼の立場からワーキングプアについて語られているが、そもそも右翼・左翼の立場からワーキングプアについて語ることは間違いだ。
ワーキングプアについては経済学や法学、社会政策の観点から語られるべきであり、個人の思想から感情的にワーキングプアについて語っても自己満足以上のモノは得られない。本書においても、世代間格差・過剰な正社員保護という問題点は無視して、勝手にワーキングプアについて語るので、効果的な代案は生まれていない。両者が言うように、組合という既得権層に頼ってワーキングプア問題を解決しようとするのは、強盗に護衛を頼むようなモノであり、何の解決にもなっていない。少なくとも経済学の初歩ぐらいは意識した対談にしてほしい。
年寄りの左翼佐高信と、年寄りに好かれる右翼兼労働活動家の雨宮処凛。
この二人から世代間格差という本当の問題について言及があることを期待する方が間違っているのだが、真の問題から目をそらしている以上、本書は社会問題に対する本としての価値を失っている。
両者の人柄は良く出ているので、ファンの人が買うなら良い本だとは思うが……。
☆★(☆一つ半)
他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://blog.livedoor.jp/setsuko2004/archives/51090374.html
http://d.hatena.ne.jp/takiguchika/20080408
http://yaplog.jp/momo-kimock/archive/3135
http://blogs.yahoo.co.jp/kaze7yoi/37499687.html
http://blogs.yahoo.co.jp/hanaotoiida/24772501.html
http://nostalghia.asablo.jp/blog/2008/08/31/3724387
皆さん評判が良い。
確かに本書を読んでスカッとするのはわかる(特に現状恵まれない人なら)。ただし、本書は発散にはなっても解決にはほど遠いとしか思えないのだが。
カスタム検索
コメント 0