本当に怖いのは自分の本心に気づくこと:カノン [小説]
篠田節子の描くホラー小説。
ホラーとしての怖さよりも、人間の持つ怖さが印象に残る作品だ。
本書のストーリー
主人公の瑞穂はかつてプロのチェリストを目指していたが、ある事件をきっかけに平凡に就職する道を選んだ女教師である。ある日、瑞穂は天才的なギタリストであった学生時代の恋人の訃報を受ける。
通夜の席で故人の弟から遺品としてカセットテープを譲り受けるのだが、そのテープを再生すると故人の亡霊が見えるようになり、テープを捨てても何故か別のテープにダビングされている。
その謎を解くために、故人の生活をトレースするうちに、落ちぶれた元天才の人生が明らかになり、瑞穂は自分の本心に目覚めてゆく……
本書のホラーとしての要素は、遺品として預かった音楽のテープによって引き起こされる怪現象と、捨てても焼いても自分の手持ちのテープにダビングされてよみがえってくると言う、呪いのテープに関するシーンである。
ただし、この部分だけを見ても正直さほど怖くない。怪現象はあるものの、人が死んだりすることが無いからであろうか?
本書で本当に怖いのは、2点。
一つは、主人公が故人の足跡を追いかけるうちに明らかになる事実。人間として持って生まれた才能や学生時代に見せた輝きなどとは無関係に、人生というステージにおける(所謂)勝ち負け、成功が決まるという事実。
私のように30代にもなれば、半ば常識として腑に落ちるのだが、学生時代に本書を手に取っていれば、人生の怖さを垣間見ることが出来たはずだ。
そして、二つ目は、自分の本心を押し隠して社会と折り合いを付けていた人間が、自分の本心に向き合ったときに引き起こされる社会・周囲との摩擦と、そうした摩擦がわかっていながら自分の行動に歯止めをかけることが出来ない人間という生き物である。
この二つ目がフィクションを通じて描かれていることに、本書の価値がある。
ヘタな怪談や呪い、化け物なんかよりもはるかに怖い、人間そのものが本書では描かれている。
ベタなホラーを求める人からすると若干的を外しているのだろうが、小説としての読み応えはそこらのホラーの比ではない。
人間の怖さ、脆さを味わえる良作である。
☆☆☆★(☆三つ半)
ちなみに、本書のタイトル「カノン」は「パッヘルベルのカノン」ではなく、バッハの作品である。私も聞いたことはないのだが……
他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://blog.goo.ne.jp/sky7dddd/e/12c8377bb1e71d87be492ec6b70ddfc1
http://blogs.yahoo.co.jp/cfmyx397/28238775.html
http://ririko.way-nifty.com/tosyokan/2005/03/post_2.html
http://kaorunokimi.at.webry.info/200709/article_10.html
(ネガティブな評価のエントリ)
http://blog.doyoyon.com/?eid=1091155
http://aktsh.seesaa.net/article/8821163.html
筆者の作品は初めて読んだけど、他の人からはさほど評価が高くない。
現代的ではないものの、悪くはないと思うのだが……。
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