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中国を離れた中国人の眼:格差大国 中国 [社会]


格差大国 中国

格差大国 中国

  • 作者: 王 文亮
  • 出版社/メーカー: 旬報社
  • 発売日: 2009/06/25
  • メディア: 単行本



成長著しく、国際政治の中で存在感を増してくる中国。
そんな中国国内の社会問題・格差について述べたのが本書である。

【目次】
プロローグ 中国の虚像と実像
第1章 「先進国」への険しい道のり
第2章 弱者いじめの社会政策
第3章 福祉分野に浸透する市場原理
第4章 医療保障システムの病弊
第5章 農村地域の最後のセーフティネット
第6章 変容する家族
エピローグ 三つの節目に寄せて


筆者の専門は文学・福祉。
本書も中国の福祉制度から来る、中国国内の格差を浮き彫りにしている。

まず、中国は共産党一党支配ではあるが、中央集権ではなく、地方の力が非常に強い。そのため、社会福祉も地方によって異なることが多く、特に農村と都市部ではその保障範囲が大きく異なっている。
当然、財源が豊かな都市部の方が保障範囲が大きくなっている。

筆者が主張する社会保障の歪みは多岐にわたる。
・軍人が優遇されすぎている。
・税金の補足が甘く、脱税が横行している。また、納税者が政府を信用していないため、納税が進まない。
・社会保障費は抑制に力点が置かれ、老人介護・生活保護等は十分ではない。
・住宅政策は公営住宅から家賃補助に重点が変化しており、補助を受けても住宅に入居できない低所得者層が苦しんでいる。
・医療保障は完全に保障されるわけではなく、軽症だと保険金が下りないため、特に農村で保険加入率が低下している。
などなど

筆者の主張では、多くの日本人は中国を今や「先進国」だと思っているが、その実体は「発展途上国」とのことだ。本書を読むとその主張が事実であることはよくわかる。

しかし、本書を読むに当たって気をつけねばならぬことがある。
筆者の経歴を引用する。
王 文亮
金城学院大学現代文化学部福祉社会学科教授。1963年、中国江西省広豊県農村部生まれ。
中山大学大学院哲学研究科修士課程、大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程を修了(文学博士)。
長崎純心大学より論文博士号(学術・福祉)授与。
中国社会科学院、九州看護福祉大学を経て、現在に至る(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

筆者は中国で生まれて、中国で教育を受け、そして、日本で働いているのだ。
筆者は日本で大学教授になるために、必死で努力したのであろうし、日本語で本を出版するぐらいだから、優秀な人だとは思う。
それでも、自分の母国以外で、母国語以外の言葉を使って仕事をしている人のバイアスがかかっていることは容易に想像できる。

たとえるなら、渡辺千香氏が「海外で勉強して働こう」と言ったり、梅田望夫氏が「日本のWebは残念」と言うのと同じ匂いを感じるのだ。
おそらく言っている内容は大きく間違っていないし、それを裏付ける説得力もある。筆者自身の実力・実績も申し分ない。
それでも、ポジショントークとまでは行かないまでも、何らかのバイアスを感じる。
そんな読後感をぬぐえないのが本書である。

冒頭で筆者が挙げた問題点も、今の日本から見ればうらやましく思えなくもない。
・地方が勝手なことをやっている→地方分権が進んでいる
・軍人が無駄に厚遇されている→国を守る軍人が十分に報われている
・納税者が信頼していない政府に税を払わない→納税者意識が非常に高い
・社会保障費の伸びを抑えるために給付を抑制→国家財政を社会保障が食いつぶす恐れが少ない
・都市部と農村の税収が保障に直結している→日本のように、都市部の税金が地方に無駄に使われることはない
などなど
見方によってはプラスになるようなことも、筆者はマイナスに見ている。

中国の社会保障からこぼれている人が多いのは事実であろうし、相対的に見れば未だに「発展途上国」であるのも事実であろう。しかし、筆者のバイアスを理解した上で、読み進める必要があるのもまた、事実なのだ。

色々考えさせられる本ではあるが、中国人が見た中国の社会保障の問題点という意味では、若干無味乾燥だが、良い本である。

☆☆☆(☆三つ)

他のBlogの反応は見つかりませんでした。
あまり話題の本ではないし、新しいから仕方ないのでしょうが……。
中国を離れた中国人が書いた本としてみると色々味わい深いですよ。







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