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今の農水省に存在価値はない?:「食糧危機」をあおってはいけない [社会]


「食糧危機」をあおってはいけない (Bunshun Paperbacks)

「食糧危機」をあおってはいけない (Bunshun Paperbacks)

  • 作者: 川島 博之
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/03/26
  • メディア: 単行本



食糧危機・食糧自給率の話題は穀物価格の高騰や、エコロジーと併せて語られることが多く、昨今におけるメジャーな論点の一つだと思われる。
しかし、本当に「食糧危機」が起こりうるのか?食糧自給率を高めることに意味があるのか?といった根本的な疑問に対し、明確な答えが語られることは少ない。
そして、その数少ない明確な答えが描かれているのが本書である。

【目次】
第1章 「爆食中国」の幻想
第2章 「買い負け」で魚が食べられなくなる?
第3章 二一世紀、世界人口は減少に転じる
第4章 生産量はほんとうに限界か?
第5章 「バイオ燃料」の嘘
第6章 繰りかえされる食糧危機説
第7章 ほんとうの「食糧問題」とは?


本書は、食糧危機の原因とされる様々な事象に対して、食糧危機など起こりえないことを明確に説明している。
本書が否定している食糧危機の原因としては
○中国・インド等の新興国が経済力を身につけるにつれて、肉食化が進み食糧の需給がタイトになる
○日本が「買い負け」して食料を輸入できなくなる
○地球規模の人口増加により、食料が不足する
○穀物がバイオ燃料に転化されることにより、食料が不足する
といったものがある。
マスコミ等ではメジャーな意見が多いが、筆者に言わせると全て根拠がないとのこと。

例えば、新興国の肉食化については、最終的に中国人が欧米人と同じぐらいの肉を食べる生活になることはあり得ず、日本・韓国と言った東アジアの先進国レベルで落ち着く方が自然だと主張する。筆者の主張はアジア人としてアジアの食生活を理解している分、欧米の研究者よりも納得がいく論調になっている。

また、「買い負け」についても、現在世界で食糧を輸入している主要国は日本・韓国・中東産油国・サハラ以南のアフリカ諸国だ。基本的に国土が狭かったり、自然条件が厳しかったり、内政が安定せずに農業を出来ない国が食糧輸入国になっている。
そう考えると、現時点で日本が食料を「買い負け」する(=中東産油国・韓国より経済力で劣るようになる)ことは非現実的であることがわかる。

その他の論点についても、筆者は根本から、わかりやすく説明している。


本書を読めば、食糧危機については現時点で心配することが無いことはよくわかる。
それでも食糧危機を煽っている人たちは、そうしたことをわかってやっている確信犯か、確信犯の情報を信じている無垢な人だ。
後者には罪はないが、自分の利益のために他人に恐怖を振りまく前者の罪は軽くない。

そして、前者の最たる組織が食糧自給率の向上をうたう農林水産省だ。
通常の常識で考えても、食品のようなコモディティについては売る方よりも買う方が立場が強い。購入のための原資さえ確保できれば、食料などは自給しなくとも日本が飢えることはない。
確かに、日本の政治指導者に多い老人層は戦後の食糧難で農民が都市住民に暴利で穀物を売って大もうけした例外的に売り手が強い経験を持っていてそれに引きずられているという、同情すべき点もある。
それでも、今後食料が輸入できなくなることなどほとんど無いことを知りながら、農家の既得権を保護するために食糧自給率を高めようとする農水省の存在価値は限りなく低い。

食糧問題についての基本的な疑問を解決してくれる本書は、煽動者にだまされないようにするためにも一読の価値がある。

☆☆☆☆★(☆四つ半)


他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)(本書の内容に賛同する意見)
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51529341.html
http://petapetahirahira.blog50.fc2.com/blog-entry-574.html
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51202213.html
http://d.hatena.ne.jp/poppokobato/20090606/p1
(ポジティブな評価のエントリ)(中間的な意見)
http://zukkoke-ziityan.seesaa.net/article/121994160.html
http://mayuharu21.at.webry.info/200906/article_27.html
http://fund.jugem.jp/?eid=1141

私自身は、本書の意見にほぼ全面的に賛成。
日本の農業は補助金を廃止し、自給率の防衛など意味のないことはさっさとやめるべきだ。
その上で、日本人しか食べないようなものだけをしっかりと自給すればいい。
それ以外の農地保護は、観光や環境や生活保護の面から考えるならともかく、農政や食糧問題で考えるモノではないと思う。







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