深くて重たい障害者スポーツの世界:闇の中の翼たち―ブラインドサッカー日本代表の苦闘 [スポーツ]
サッカー日本代表を扱ったドキュメンタリー
と言っても、八咫烏の青いユニフォームを着た誰もが知っているサッカー日本代表ではない。
全盲の人が行う”ブラインドサッカー”の日本代表の物語である。
障害者スポーツの持つ凄みと楽しさ、そして問題点が明らかになっているパワーを持ったスゴ本である。
【目次】
序章 無闇
第1章 圏外
第2章 助走
第3章 挑戦
第4章 察知
第5章 変貌
第6章 飛躍
第7章 桃源
第8章 原点
終章 越境
想像してほしい。
目をつぶって、ボールが鳴る音だけを頼りに”サッカー”をするところを。
ドリブル・シュートと言った基本動作をすることですら困難。
味方のパスをトラップすることは絶望的なまでの難易度である上に、そらしたボールの方向を掴むことは出来ない。
ディフェンスで全力疾走すると、相手や味方と激突する危険と恐怖がつきまとう。
そんな過酷な競技において、サッカーが好きという一心でトレーニングし、上達して世界に挑む。
ブラインドサッカーはサッカーもどきではない。立派な一つのスポーツであり、八咫烏の日本代表に負けない感動を本書から味わうことが出来る。
そして、本書から伝わってくるもう一つの感情は、スポーツによる楽しさと、スポーツを出来ることに対する喜びだ。本書は、パラリンピックを目指す日本代表の物語だが、登場する選手は当然のことながらサッカー専業ではない。
公務員・教員・鍼灸師と言った、日常の生活を持っているアマチュアのプレイヤーなのだ。
そうしたアマチュアだからこそ、自分が楽しむために全力でプレーし、プレーできることに無上の喜びを感じる。
アマチュアリズムとは名ばかりの特待生が集う高校・大学スポーツとは異なり、本当のアマチュアリズムが存在するのだ。
このように本書では、感動と楽しさを味わうことが出来る。
が、それと共に障害者スポーツを取り巻く問題点も明らかになる。
健常者のスポーツを管轄する文部科学省ではなく、障害者スポーツは厚生労働省の管轄となるため、ブラインドサッカーの選手・団体は日本サッカー協会と関係を持てない。そのため、サッカー日本代表・女子代表と異なり、パラリンピックにおいても八咫烏のユニフォームを着ることが出来ない。
失明する前にサッカー日本代表にあこがれていた選手も多いにもかかわらず……。
また、障害者サッカーの施設が存在せず、日本選手権と言った晴れの舞台ですら、人壁(フェンスの代わりに人間が手をつないでフィールドを囲む)の代替手段で開催せざるを得ない現状。
さらに、韓国がホームアドバンテージを最大限に活かす、日韓ワールドカップでやったような卑劣な手段に出るのだが、それに対して抗議をする協会も、世論も存在しない。
このように、障害者スポーツを取り巻くお寒い現状までもが明らかにされているのだ。
私はどちらかというと話題の書籍、どこかで勧められていた書籍を読むことが多い。
本書は直感で手に取った数少ない例外だ。
にもかかわらず、本書は私にとってスマッシュヒットする大当たり作品であった。
スポーツドキュメンタリーとしても、障害者スポーツの問題を論じる作品としても一流の本書。
一人でも多くの人に手にとってほしい作品である。
☆☆☆☆★(☆四つ半)
本書を読み終えてタイトルの意味がやっと腑に落ちた。
「闇の中の翼たち」の「翼」はこれを指していたんだ。
他のBlogの反応としては、筆者及びその知り合い、ブラインドサッカーの関係者のBlogでちらほら言及されている程度。
こんないい本が読まれずにいるのは正直もったいない。
サッカー好き、スポーツ好きの人は是非是非手に取ってみてほしい。
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