SSブログ

嫌儲の経済入門:恐慌論入門―金融崩壊の深層を読みとく [経済]


恐慌論入門―金融崩壊の深層を読みとく (NHKブックス 1133)

恐慌論入門―金融崩壊の深層を読みとく (NHKブックス 1133)

  • 作者: 相沢 幸悦
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2009/03
  • メディア: 単行本



本書を「経済」のカテゴリに入れて良いかは非常に悩む。
一応、テーマとしては恐慌を扱っている経済モノなのだが、儲けることを否定するようなトーンで書かれており経済学の本に分類できるかは非常に微妙なラインだと思う。

【目次】
 第1章 アメリカ型資本主義はなぜ崩壊したのか
 第2章 崩壊の深層――金融はいかに肥大化したのか
 第3章 1929年恐慌から何を学ぶべきか
 第4章 金融不況から「恐慌」へ――平成大不況の本質
 第5章 サブプライム危機とヨーロッパ
 第6章 経済・金融システムをどう改革するか
 終 章 日本の進むべき道


本書の主張は、
・通常の「恐慌」は景気循環のどん底であり、供給が需要に見合ったレベルまで縮小すると回復する。
・その際には景気の悪い中で企業の努力がなされるのでイノベーションが起こって社会が進歩する。
・但し、今回の金融危機は景気循環ではなく、金融主導での恐慌
◎今回の恐慌をきっかけに、今までのITやバイオ等の技術発展から来る拡大型の経済から、地球環境保全経済システムへ移行しなければならない
・日本の平成不況は「恐慌」にもかかわらず、痛みを先延ばしにしてきたツケ
・日本も儲け市場主義から、環境保全経済へ移行しなければならない
こんな感じである。

私が一番理解に苦しむのは◎の主張。
確かに環境重視の技術開発はあった方が良いのだろうが、現在の経済を否定して環境最優先の低成長経済に切り替える必然性は理解できない。

筆者の主張でも突っ込み所、意味不明なところは多い。
「会社は株主だけのものである」という経済・経営システムの上に成り立つアメリカ型の金融システムを、「会社はみんなのものである」という日本の経済・経営システムを変革することなしにそのまま導入したら、マネーゲームが横行するのは明らかであった

→じゃあどうすれば良かったんでしょうか?旧来の価値観を変えるには新しい価値観が必要だと思うのですが……
とか、
日本の公的金融機関は、平成台不況期に貴重な役割を果たしてきた。不況期になると民間銀行は融資を控えるからである。銀行が融資をしてくれないので、黒字なのに倒産してしまうと言ういわゆる「黒字倒産」などおかしなことも起きた。公的金融機関が存続していれば、このようなことは、あまりなかったはずだ。

→黒字倒産を防ぐ以上にゾンビ企業への融資、政治家の口利き融資などで国民の財産が毀損されていたと思います。そもそも、黒字倒産になるのはキャッシュフローをまともに読めない経営者が無能なのだし、まともな企業なら直接金融で資金を集めることも出来ます。
と言った具合だ。

しかも筆者は、住宅金融公庫の廃止と郵貯の民営化は明らかな間違いであると主張する。
政治家や社会学者ならともかく、民間と競争する形での国家事業を肯定する経済学者は珍しい。

そして、賃金引き上げと休暇の増加で内需を拡大して経済を回復させることを提言している。
賃金を引き上げるとそれに応じて失業が増えるか海外へ工場が移転することは考えていないらしい。

このように突っ込み所が満載の本書。
筆者は経済学の教授なので、私なんかよりも経済に詳しく、経済理論の裏付けがあるのかもしれない。
しかし、本書からそういった裏付けは読み取ることが出来ず、不況にかこつけて世論に迎合するトンデモ本にしか見えない。

そもそもドイツを礼賛する筆者は、今回のドイツの選挙をどう考えているのだろうか??

少なくとも経済についての本をあまり読んだことのない人には勧められない。
他の意見と比較するために読むのなら、がまんできなくもないかも。

☆(☆一つ)

他のBlogの反応はこちら
(ポジティブな評価のエントリ)
http://d.hatena.ne.jp/nagoyan2005/20090604/p1
http://ratio.sakura.ne.jp/archives/2009/04/15231053/

エントリ数は少ないものの、評判はよい。
私なんかは恐慌の解説とトンデモ理論をくっつけた悪書にしか見えなかったのだが……。





タグ:相沢幸悦
nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 2

jack

初めてコメントさせていただきます
経済学なるものは存在しないのでは 経営学または経理学みたいなものは
あると思うけれど
なぜならば 経済学なるものが存在するなら こんな不況に対処できる方法
を提示できるはず けれど 経済学者のかたがたは何一つの提案すら
打開策すら言い出せないでしょう 
経済学は歴史学と同じで 時代を後から追う学問は
変化の早い近代の経済社会には 何の役にも立たない
新しい経済システムを提案できるならまだ使い道はあるかも知れない
その意味で ご紹介の本は価値があるのでは
by jack (2010-10-05 19:50) 

book-sk

>jackさん
コメントありがとうございます。

経済学は3人いれば3様の意見があると言われるように、いろいろな流派があり、不況に対応できていないようにも見えます。
ただ、明らかに主流と見られる意見は存在し、不況脱出への解を提示されているのに、日本がその経済学の英知を生かし切れていないのも事実なのです。

むしろ、本書の様に経済的発展を諦めて社会主義的な路線を取ることは、国民みんなで貧しく、苦しくなる敗北への道にしか見えません。
by book-sk (2010-10-05 23:18) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。