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プロフェッショナル組織の運営:オーケストラの経営学 [経済]


オーケストラの経営学

オーケストラの経営学

  • 作者: 大木 裕子
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2008/10/16
  • メディア: 単行本



オーケストラという専門家集団を対象として、プロフェッショナルによって構成される組織の運営と、クラッシックオーケストラの経営について述べた本書。
経営と言っても深いレベルの話は少なく、理解しやすい、あっさりとした内容であり、クラシックを知らない人にとっては取っつきやすいが、詳しい人には物足りないレベルだと思われる。

【目次】
開演挨拶
第一楽章 「のだめ効果」はあったのか 業界の特徴と規模
第二楽章 「音大生」の投資対効果 オーケストラの人々
第三楽章 なぜ赤字なのに存続するのか オーケストラの会計学
第四楽章 オーケストラの経営戦略 外部マネジメント
第五楽章 指揮者のリーダーシップ 小澤征爾かカラヤンか
第六楽章 世界的音楽家はいるのに日本に世界的オケがないわけ 内部マネジメント
終演挨拶


本書は、大きく分けてオーケストラを二つの視点から論じている。
一つは、音楽家はどの程度儲かるのか?オーケストラの経営状況は?と言ったクラシック音楽産業の経営について。
もう一つは、人事権も報酬決定権も持たない指揮者がどのようにしてプロフェッショナルの集団であるオーケストラを動かし、高いパフォーマンスを達成するかという組織運営についてである。


このうち、前者のクラシック音楽産業の経営については、ハッキリ言ってお寒い状況にあると言える。
まず、クラシックはまともな音響の会場のキャパシティが限られており、お客が入るチケットの値段設定をするとほとんどの場合赤字で、良くてトントン程度の収入しか確保できない
それでいて、集客力のある有名な指揮者やソリスト・オペラ歌手はギャラが高額なので、主力商品であるコンサートでもうけを出すのは非常に難しい状況なのだ。

さらに、クラシックの顧客は軒並み高齢化しており、唯一の希望はマンガ「のだめカンタービレ」によるブームという、かなり末期的な状況がわかる。

それらに対する筆者の出した解は公的機関(国・地方自治体)による支援なので、筆者の分析を信じると、日本ではクラシック音楽は産業として成り立っていないことになる。


他方、楽団員に対して直接の報酬を提供できない指揮者がプロフェッショナル集団である楽団をどのようにしてうごかすのか、どのようにして高いパフォーマンスをだすのかと言う組織運営の面は前向きで、興味深い。

まず、オーケストラは報酬もさることながら、プロとして自分の納得するパフォーマンスや上手な人との競演という刺激を受けることで、納得して気持ちよく働くという性質を持った組織だ。
このあたりは、プロフェッショナル集団である、プロスポーツのチームや企業の技術者・ギークの集団に通じる性質を持っている。

それに対して、一流の指揮者は①自らの持つ音楽的才能②激務に耐えうる肉体的な強さというパワー③心理学的手法を用いたコントロール④政治的能力に裏付けられたパワーの駆使、と言った手法を駆使して、オーケストラの持つ能力を最大限に引き出す。

そうした能力の一流の使い手で、本書で取り上げられている一流指揮者である、トスカニーニ、フルトヴェングラー、カラヤン、小澤征爾と言った人々が指揮すると、アマチュアや学生のオーケストラでも見違えるような音を出すのだ。

こういった手法は正直に言って誰でもが使えるものではない。
それでも、こうした人がいて、お金や地位を与えずに他人から最高のパフォーマンスを引き出しているという事実は、会社勤めの人にも十分に参考になるはずだ。

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ここからは、本書の直接の内容ではなく、私の関連思考。

国内でCDの売り上げが落ちていると言うときに敵役にされるP2P。
それでも、ロック・ポップスは何万人という集客力のあるコンサートが開催できるし、P2Pによる流出も、著作権侵害とはいえ、宣伝効果として差し引きできる面も大きい。

ところが、クラシックでは会場のキャパシティからコンサートで大きく儲けることは難しい。
P2Pによって演奏が共有されるようになると、クラシックこそ大打撃を受けるのでは無かろうか?
著作権のあり方を考えるべき。と言う人は、こうした業種のことも考えてその内容を議論すべきだと思う。

以上、本の内容を離れた思考。
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このように、本書は入門的な内容ながらも、多くのことを考えるきっかけとなる。
クラシックの曲を一曲も聴いたことがない人でも、気楽に読んでみてほしい。

☆☆☆★(☆三つ半)

他のBlogの反応はこちら
(ポジティブな評価のエントリ)
http://atsuki.blog.so-net.ne.jp/2009-04-01
http://blog.goo.ne.jp/takawatasho/e/3000dc36475a60f81821cb1fcd81ab0a
http://book-museum.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-efc2.html
http://zauberfloete.at.webry.info/200812/article_11.html
http://oekfan.air-nifty.com/news/2008/11/post-306c.html

ここでは取り上げなかったが、ネガティブな評価のエントリも多数あり。
思ったよりも深くないので、期待はずれの人は多いかも。
直接的な知識吸収より、考える素材・練習台としての方が向いている一冊だろう。





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