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老人は若者にたかるのを止めてくれ:経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS) [経済]


経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

  • 作者: 芹沢 一也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/06/25
  • メディア: 新書



貧困から脱出するためには、昭和30年へのあこがれという幻想を打ち砕いて、経済成長をして行かなくてはならない。こんな当たり前のことを、大マスコミの誤報に毒された一般人に向けてわかりやすく説いたのが本書。
筆者は芹沢一也となっているが、対談の大部分を占めるのは経済学者の飯田泰之であり、まっとうな経済学に裏打ちされた議論がなされている。

【目次】
序章 議論の前に(飯田泰之×芹沢一也)
  本書の見取り図
  ケインズとハイエク、フリードマンの違い ほか
1章 高度成長とは何だったのか―戦後日本経済思想の源流と足枷(岡田靖×飯田泰之)
  「心の師匠」岡田靖
  現代社会の原点としての世界大恐慌 ほか
2章 戦争よりバブル、希望はインフレ(赤木智弘×飯田泰之(司会・芹沢一也))
  左派言論への幻滅
  三つの「安定」 ほか
3章 何が貧困を救うのか(湯浅誠×飯田泰之(司会・荻上チキ))
  なぜ「溜め」は失われたのか?
  「所得保障」か「規制・公的給付」か ほか
終章 議論を終えて(飯田泰之×芹沢一也×荻上キチ)
  「お薬経済学」と「筋トレ経済学」
  経済学はプレカリアートにどう語りかけるか ほか
 


本書はメイン論者である飯田泰之が三者三様の論客と対談することによって、今の日本を覆う「経済成長はいかがわしい」「低成長下でのあり方を見つける」「経済よりも精神」と言った、間違えた論調を打ち砕くことを意図している。

まず、1955年生まれの経済学者である岡田靖との対談において、「昭和の時代、特に昭和30年代は良かった」と言う誤った幻想を打ち砕く。

二人の論者が言うように、昭和の時代は、環境も悪く、自由の度合いも低い、今から見ると暗黒に近い時代であったのだ。
高齢化が進むにつれて懐古主義へのニーズが高まってくることから、大きな高齢者マーケットを狙うために、大マスコミは朝日も産経も”昔は良かった”と言い続けるのだろう。
そうした商売の言動を真に受けてしまうと、これからの日本は地獄に向かって突き進むことになってしまう。
現実をしっかりと見据えて、将来の日本人にまともな国家を残さなくてはならない。


次に、赤木智弘、湯浅誠の両者と立て続けに対談することによって、若者の貧困を解決し、ロストジェネレーションを救うには経済成長が唯一の解であることを示す。

現在の日本でワーキングプアが発生し、若者の生活が苦しくなっているのは、亀井静香が言うように小泉改革のせいではない。
俗に言う失われた10年(実際は20年近く)のデフレのせいで、経済成長が止まって、若者にお金が回らなくなったからだ。
ところが、高齢化が進んで老人がメイン顧客となったマスコミは、老人に都合の良いデフレを続けさせるために、問題の本質を語らず、小泉改革と新自由主義が格差を拡大したと言う誤った言説を流す
格差を解決するためには、デフレを止めて、インフレ率を2%前後に持っていくだけでいいのに……。

本書からは、新書版1,050円という値段設定からもわかるように、広く一般の人に、まともな経済知識に基づいた問題意識を共有してほしいという意図が強く伝わってくる
内容もイデオロギー中立的であり、本書を読めば社会問題に対する見方の幅が広がる、文句なしの良書である。

ところが、その目的は遠そうだ。
Amazonのレビューから引用する。
緊急避難的に、という限定があればもう少し評価は高くなると思うのですが・・
以下の点をどのように考えるのかが議論されていないので★二つです。

1)地球環境・資源が有限であるという認識が欠如しているのではないか?
2)しかも、60年代からこれまでのようにG8のような数カ国だけが、他国を「大消費地」=マーケットと位置づけて経済成長を謳歌してきた時代ではないことの認識も見られない。

上記2点を視野にいれたうえでも、「2パーセント台の”右肩上がり”を維持していく」というのだろうか。
むしろ、右肩下がりでもどのように持続していけるのか?ということに向き合わなければならないのが「今」なのではないか?

あとは「コミュニティ」への冷笑的態度は、どうしてなのだろう?
そこに暮らす人たちの声を反映したビジネスを立ち上げることで、雇用機会が生まれたり、新しい技術の萌芽になっていくと思うのだが、情報の循環の基盤としての人のつながりというものをあまりにも捨象しすぎているきらいがあります。
コミュニティについての言説は、「昔に帰れ」的な懐古趣味ばかりではないと思いますが。


「右肩下がりでもどのように持続していけるか?」って、それが無理だと言うことが全然伝わっていない(泣)。
先進国が後進国をマーケットにしなくても、人間の学習効果と技術革新によって大体2%ぐらいは成長するのでデフレから脱却するだけでいい。
また、「環境が有限」だから経済成長をあきらめるのでは日本人が貧しくなるだけなので、経済成長でゆとりを確保してから技術革新によって対応するべきなのだ。

本書を読んだはずの人でさえ、そんな本書が伝えたかった初歩的な事項ですら伝わらず、新聞・TV等の間違った意見をかたくなに信じて、貧乏への道を突っ走っている。
これが老人の書いたレビューではなく、30代~40代と思われるこどもを持った人の意見なのだから、泣きたくなってくる。

こうした事実からすると、本書で達成したかったゴールへの道は前途多難と言うしかない。


☆☆☆☆☆(☆五つ。多くの人に読んでほしい立派な一冊です)

余談だが、コミュニティについては論者の飯田泰之の個人的な意見として、コミュニティ中心になると個人の自由を奪う方向になる。との理由から冷笑的態度が取られている。この点については赤木智弘も同意見だ。
これについては本書のメイン論点ではないのだが、転勤族で田舎にも都会にも住んだことのある私には非常に同意できる意見だ。
一人の人間がどんな学生時代を送ったかがコミュニティで共有されており、その評価は一生ついて回る。田舎では当たり前のことだが、私をふくめて、そんなコミュニティに耐えきれない人は決して少なくないはずだ。


他のBlogの反応はこちら
(ポジティブな評価のエントリ)
http://gaku365.blog32.fc2.com/blog-entry-303.html
http://d.hatena.ne.jp/next49/20091005/p6
http://d.hatena.ne.jp/daen0_0/20090819/p1
http://d.hatena.ne.jp/mxnishi/20090704/1246658379

404Blog Not Found
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51228546.html

論者の一人である荻上チキ氏のサイト
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20090625/p1

そして以下が飯田泰之氏のサイト(本書への言及エントリ)
http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20090812
本書を読んだ後に、飯田氏のBlogを読むと、より味わい深く楽しむことが出来、オススメである。





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コメント 3

通りすがり

ちょうど「拝金主義は良くないから経済成長もいらない」といった類の言説にうんざりしているところでした。
良い本の紹介、ありがとうございました。まずは読んでみます。
by 通りすがり (2009-11-11 03:55) 

岡田靖

あの、私、まだ54歳ですが。
by 岡田靖 (2009-11-11 09:08) 

book-sk

>通りすがりさん
コメントありがとうございます。
経済危機以降増えた「資本主義の終わり」本とは一線を画す内容で、読みやすいのでオススメですよ。

>岡田様
大変失礼いたしました。
本書を確認すると生年が'55年としっかり書かれておりました。
早速訂正いたしました。

しっかりと確認せずに適当に書いて、しかもご本人に訂正されるとは、誠に持って申し訳ありませんでした。
このコメントでお詫びさせていただきます。
by book-sk (2009-11-11 23:58) 

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