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江戸川乱歩賞黄金期の受賞作:八月のマルクス [小説]


八月のマルクス (講談社文庫)

八月のマルクス (講談社文庫)

  • 作者: 新野 剛志
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/06
  • メディア: 文庫



新野剛志が江戸川乱歩賞を受賞してデビューした作品。
前に読んだ「あぽやん」とは全くカラーの異なる、ハードボイルド作品だ。

いつもは小説の場合、あらすじを書くのだけど、今回は面白さを保つために書かない。
本書の特徴の一つはその釣りとも言えるタイトルだ。
タイトルと冒頭を釣り針にして、作品に引き込むというテクニックは、小説賞向けの文章テクニック本では良く語られる手法だが、ここまで見事にこなしているデビュー作はそうそう無いだろう。

本書は元お笑いスターで、現在は引退してニートとしてくすぶっている男の所に今でも大スターの元相方が訪ねてくる所から始まる。
この他人に興味を持てない主人公が、数少ない人間としての興味を持つ事の出来る、元相方と元恋人のために危険な橋を渡る。この主人公に熱くなるものを持てない私などは非常に共感して作品に引き込まれていった。
私もそうなのだが、人生で1度ぐらいは挫折したことのある人の方が、本書の主人公には共感できるだろう。
そういう意味では、学生さんより社会人に向いているのかもしれない。

デビュー作なだけに、粗い部分もあるし、ケチはいくらでも付けることが出来る。
それを補ってあまりある力とキャラクター造形は読んで損をしない力を持っている。


本書が江戸川乱歩賞を受賞したときの最終候補作として、首藤瓜於(翌年受賞)、堂場瞬一と言った実力者がそろっている。前年度受賞者が池井戸潤福井晴敏とこれまたうまくいった作家であることもあり、江戸川乱歩賞黄金期の受賞作だと言えるだろう。
本書から数年経つと江戸川乱歩賞の輝きも衰えてくるのだが……。

☆☆☆(☆三つ)

本書はこんな人にオススメ
・女性よりは男性
・人生で大なり小なり挫折を経験した人
・お笑い芸人・芸能界という設定にそそられる人
・小説賞むけに受賞作を研究したい人


他のBlogの反応はこちら
(ポジティブな評価のエントリ)
http://mrmobiler.at.webry.info/200903/article_12.html
http://pumila.jugem.cc/?eid=986
(微妙な評価のエントリ)
http://knax.blog119.fc2.com/blog-entry-519.html
http://mizzo-style.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-3e16.html
(ネガティブな評価のエントリ)
http://d.hatena.ne.jp/urt13/20100109/p1
http://ponett.seesaa.net/article/44534573.html

賛否両論。どっちかというと否定的な意見の方が多いかも。
確かに2010年の江戸川乱歩賞なら受賞できないでしょうね。ハードボイルドだけ有って古くさいし……。
それでも、書かれた時代を考え、デビュー作であることを考えれば悪くないと私は思います。





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