リフレ理解へのはじめの一歩:デフレと円高の何が「悪」か [経済]
本書のタイトルは良くできている。
今の日本を覆う問題のうち、デフレ・円高・少子化の3つについては、”良いこともある”と擁護するばかげた識者が少なくない。
曰く
・デフレだとものが安く買えるので生活者として助かる
・円高になると輸入品、海外旅行が安くなるので嬉しい
・(本書には関係ないけど)世界規模で見ると人口過剰なので日本が少子化になるのはむしろ良いこと
等というふざけた意見は未だに結構見受けられる。
デフレ・円高のメリットを主張する人は、是非本書を読んで欲しい。
その間違いが直ちにわかるはずだから。
【目次】
序 文 勝間和代
はじめに
第 1 章 デフレと円高は恐ろしい ---- 生活に与える諸影響
第 2 章 物価の動きにチェックせよ ---- デフレが進んだ理由
第 3 章 日本に無税国家が誕生する? ---- 金融政策と金利のメカニズム
第 4 章 金ならなる、心配するな ---- 財政と財源を考え直す
第 5 章 歴史は繰り返す ---- 昭和恐慌から学べ
第 6 章 今、やるべきことは何か ---- 具体的な政策を実行せよ
おわりに
本書は、タイトルにもあるようにデフレ・円高の何が悪いかをわかりやすく解説した上で、デフレから脱却するための方策(リフレ政策)についての解説を実施している。
デフレ・円高は悪い話じゃないと思っている人は必読。
デフレの害を説く部分については非常に良い出来で、何故デフレが悪いのか?が非常に良くわかる。
反対に、リフレ政策の部分は新書と言うこともあり若干消化不良。
リフレ政策で日銀が国債を引き受けて通貨供給量を増やすとデフレを脱却できる(=インフレになる)ということはよくわかるのだが、その財源で政府が何をすべきかが明確でないのが個人的には一番残念。
理論的にはどんな無駄な公共事業でも通貨を供給できればいいのだろうが、無駄な事業をやって使えない公共資産を積み上げていくことは既得権を生み、経済構造を歪める弊害の方が大きいのではないだろうか?という疑問が私の中では残ったままなのだ。
筆者は、(昭和初期に正しい経済政策を実施した)高橋是清が暗殺されたのが残念だと書いているが、それもリフレ政策で軍事費という公共事業を増やした弊害で、(デフレ脱却後に軍事費を減らしたときに)殺されてしまったとは言えないだろうか?
流石に平成の世の中で軍事費増額による社会不安はないだろうが、リフレ政策で公共事業で地方に土建屋が増え、成長率の低い建設業に多くの人が集まるようになっては、逆効果のようにも思えてしまう。
筆者も言うように、本書は経済を知らなかった人に対する入門の書で、デフレの害・デフレ脱却が可能であるという事実が示せれば十分なのだろう。そういう意味では本書は優れているし、一読の価値が有る。
ただ、ある程度経済書を読んだことがある人にしてみれば、リフレに関する疑問は依然残ってしまう。
願わくば、本書の次に読む本格的な経済書を挙げてくれていれば、よりポイントが高かったのだが。
☆☆☆★(☆三つ半)
他のBlogの反応はこちら
(本書をポジティブに評価するエントリ)
http://d.hatena.ne.jp/JD-1976/20100116/p1
http://d.hatena.ne.jp/walwal/20100508/1273328136
http://bestbook.livedoor.biz/archives/50935902.html
(本書に対して微妙な評価をするエントリ)
http://nakatsutkdc.blog.so-net.ne.jp/2010-04-12
http://hasekeikei.exblog.jp/10459109/
http://d.hatena.ne.jp/goldensnail/20100511/p1
結構賛否両論だが、筆者の書きぶり・口調が結構きついので、その点だけに反感を持っている人も多い模様。
そこは”悪名は無名に勝る”ということなのだろう。
個人的には、良い出来だと思います。願わくば、アドバンス編を出して、実際にリフレ政策をやる場合の未来像を書いてもらいたい。
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