SSブログ

日はまた昇り、そして沈むのか?:100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図 [社会]


100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図

100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図

  • 作者: ジョージ フリードマン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/10/09
  • メディア: 単行本



 私の祖父が生まれた頃(1917年)は、第一次世界大戦とロシア革命のあった年で、私の父が生まれた頃(1944年)は第2次世界大戦の終盤だ。その頃に日本は米国と同盟を結んで世界第2の経済大国になっていると言っても、多くの人は信じられなかっただろう。
 私の生まれた頃(1976年)は日本の高度経済成長も終わって数年後で、その頃に日本経済が長期にわたって停滞し、親の世代より良い暮らしをすることが難しい時代が来ると言っても、多くの日本人は信じられなかっただろう。
 じゃあ、私の孫世代が生まれるであろう約30年後はどうなっているのだろう?
 私が確実にこの世にいない100年後の世界はどうなっているのだろう?

 もちろん、そんな遠い将来のことはわからない。
 それは事実だが、遠い将来のことも”予測”することは出来る。
 そして、”影のCIA”とも呼ばれる米国の民間情報機関ストラトフォーの設立者が地政学の知識を活用して、100年後の将来の予測に挑んだのが本書である。

【目次】
序章 アメリカの時代とは何か
第1章 アメリカの時代の幕開け
第2章 地震―アメリカの対テロ戦争
第3章 人口、コンピュータ、そして文化戦争
第4章 新しい断層線
第5章 二〇二〇年の中国―張り子の虎
第6章 二〇二〇年のロシア―再戦
第7章 アメリカの力と二〇三〇年の危機
第8章 新世界の勃興
第9章 二〇四〇年代―戦争への序曲
第10章 戦争準備
第11章 世界戦争―あるシナリオ
第12章 二〇六〇年代―黄金の一〇年間
第13章 二〇八〇年―アメリカ、メキシコ、そして世界の中心を目指す闘い


●当たる当たらないより、予測の方向性が大事
 
 Amazonの商品紹介から本書の内容要約を引用すると、
・アメリカ・イスラム戦争は近く終局をむかえる。
・勢力を回復したロシアは、アメリカと第2の冷戦をひきおこす。
・アメリカへの次の挑戦者は中国ではない。中国は本質的に不安定だ。
・今後、力を蓄えていき傑出する国は、日本、トルコ、ポーランドである。
・今世紀半ばには、新たな世界大戦が引き起こされるだろう。その勝敗を左右するのはエネルギー技術であり、宇宙開発である。
・そして、今世紀の終わりには、メキシコが台頭し、アメリカと覇権を争う。

 これらの内容について、多くの日本人は荒唐無稽に感じるであろう。
 しかし、この荒唐無稽にも見える内容も、その根拠はしっかりしたものであり、根っこの考え方を理解することは非常に有益である。

 筆者の考えとして、
・世界の海洋貿易を支配するアメリカは21世紀中の優位は動かない
・中国は歴史的、地政学的に分裂する要素を持っている
・ユーラシア大陸に強大国が登場することをアメリカは全力を持って阻止する
・日本、トルコ、ポーランドが安全を求めてユーラシア大陸で地域覇権を狙うことはアメリカの利益と相反する
・戦争が技術を加速し、その技術は経済的繁栄をもたらす
・全ての先進国は人口減少、高齢化に悩まされる
 といったことが語られており、この地政学に基づく予測は非常に役立つ。

 例えば、サブプライムローンショックの後には米国の退潮を主張し、ドルの将来を不安視する声が多かったのだが、米国の力の源泉たる海洋貿易を支配する力は衰えていないので、そうした心配は早計であったことが理解できる。
 この例が後付で極端なものに映る人でも、地政学的思考で本書の様な考え方をする人が一定程度いることを頭に置いておくのは無駄ではないはずだ。
 
●どの程度当たるかの試金石は中国・ロシア

 このように、本書の本質は書かれている将来よりもそれを導く思考だ。
 とは言っても、本書の未来が本当に実現してしまうかどうかは非情に気になるところだろう。この的中度合いを測る最も良い観察対象はここ十年の中国・ロシアだ。
 筆者の予測では、中国は分裂(又は、地域主義の強化)が起こり、ロシアは力を増して米国と第二のプチ冷戦を引き起こすことになる。これらの予測が当たるかどうかが第一チェックポイントたり得る。

 特に、現在の国際政治・経済についての本を読むと、中国については歴史を重視して分裂するとする説と、現在の勢いを重視してますます発展するという説が対立している。筆者はもちろん前者に該当するのだが、その見方が的中するかどうかで、本書の描く21世紀中盤の実現性を占うことが出来るだろう。

●本書の描く21世紀中盤がうらやましく映ってしまう
 
 筆者曰く、2050年頃には、日本は東アジアの地域覇権国として、米国と再度の戦争を経験することになる。
 この内容を見て、どう思うだろうか?今の高齢者は「そんな未来はとんでもない」と思うだろう。
 私も、戦争は絶対に反対なのだが、心のどこかではそういう未来があるなら日本も捨てたものじゃない、とも思ってしまう。「希望は、戦争」と言った赤木智弘ではないけど、停滞の現在を生きる私たち世代からすると、覇権に挑む本書に描かれた日本の姿は、苦しくも輝かしい未来に映ることは事実である。

●最後に 
 しっかりとした根拠、論理で展開される荒唐無稽なストーリー。
 地政学・政治学のストーリーとしても、SFとしてもそれなりに楽しむことが出来る本書。意外と間口の広い本だと思う。

☆☆☆☆(☆四つ)

他のBlogの反応はこちら
(本書をポジティブに評価するエントリ)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/100-3.html
http://www.itbook.info/web/2010/02/100%E5%B9%B4%E4%BA%88%E6%B8%AC%E2%80%95%E4%B8%96%E7%95%8C%E6%9C%80%E5%BC%B7%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%82%B9%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%8C%E7%A4%BA.html
http://blog.goo.ne.jp/55350472/e/46a9fb8152322972c2916227b5e92eff
http://plaza.rakuten.co.jp/sebook/diary/201001190001
http://d.hatena.ne.jp/souta-bot/20091228/1262020651
http://d.hatena.ne.jp/astrsk_sakikawa/20091211/1260459468

皆さん以外と高評価。100%真に受けている人はもちろん少ないんですがw

私が、本書と”併せて読みたい”と薦める本はこちら

文明の生態史観 (中公文庫)

文明の生態史観 (中公文庫)

  • 作者: 梅棹 忠夫
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1998/01
  • メディア: 文庫


こっちは、日本とアメリカの類似性を説く本なんだけど、テーマは文明史で本書とは若干の親和性があるし、昔のトルコ帝国に言及していたので思い出しました(こっちでは帝国復活はあり得ないという論調でしたが)。
これも良い本ですよ。





nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。